人種差別
出典: Jinkawiki
人種差別の概要
人が自らとは異なる人種に対して形質的差異をもって差別すること。一般に白人、黒人、アジア人など、肌の色や顔立ちについての伝統的な人種観念に基づく差別をさすことが多い。対して言語や文化・宗教などの民族による差異に対する差別は民族差別と呼称される。
科学的に有効とはいえない概念としての「人種」
人間の生物学上の類別的概念としては、ブルーメンバッハ(1795)が主張した、人種の最初の分類の中にすでに人種間の優劣についての言及がある。これ以降、「人種は生物学的概念であり、民族は文化的概念である」という誤った考え方が定着していった。人種が生物学的区分であると考えられた理由は、人種を生物学的な形質から大まかに区分することができるという仮説にもとづいていたり、人間の「自然な集団」というものがあると前提とする考えかたからでてきた。前者の仮説は、形質の区分はつねに恣意的であり客観的な線引きは、生物学上はできないことで否定された。後者の前提は、生物種(species)としても亜種(subspecies)としても「自然な集団」としての人間を生物学的に区分できないことで否定された。ユネスコは人種に関する2つの宣言(1950,1951)をおこない、人種概念がそれにもとづく差別に乱用されないような説明をおこなったが、これすらも今日では古典的な人種概念の残滓がみられると自然人類学者の中には批判する者もいる。
否定的な意味で想起される必要のある用語
人種概念は、つねに人種差別思想とセットになって一世紀半以上も西洋思潮を支配し続けたため、人種概念が科学的に無意味であることを認識しても、人種差別思想はすぐには消滅することはない。おまけに、人種差別思想を廃絶することを目的に運動を展開した人類学者の間には「人種は生物学的区分であり、民族は文化的区分」という前提にもとづいて「人種間の優劣は存在しない」という主張をおこなったために、人種=生物学的な人間の類別的概念という考え方が長いあいだに定着してしまった。そのため、人種概念の相対化するために、人種差別思想と分けることのできない人種概念(科学史における人種概念)が、どのように歴史的に社会的に構築されてきたのかという研究が進んできている。もっともこの種の研究は、今日的では科学的に誤った概念の使い方を探し出し、その論理構築の誤りを指摘するという、科学史における勝利者史観とよばれる結論の論点先取的議論になりがちである。また、異種混交肯定の立場から反人種論について議論する際には、なぜそれがつねにマイナー位置しかとり得なかったのかという考察や証明が不可欠である。