愛国法
出典: Jinkawiki
←前の版 | 次の版→
アメリカ愛国者法ともよばれる。正式名称は「The Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism Act(テロリズムを盗聴し阻止するための効果的手段を提供することによりアメリカを団結させ強化する法律)」という。愛国者法の要点はとしては、無限定な構成要件・捜査権限の強化・移民に対する身柄拘束・情報の交換と共有などに特徴があり、その結果、アメリカでは「思想信条、言論、集会、結社の自由の侵害」「人身の自由の侵害」が、甚だしくなっていた。
法律制定の経緯
2001年9月11日のテロ事件は、米国本土への攻撃であったこと、またその規模が大きかったことから、米国社会に大きな衝撃を与えた。政府及び議会はこれに対応するために、事件直後から活発に動きだした。9月17日(火)に司法省で行われた記者会見で、アシュクロフト司法長官は、議会に望む法改正案の概要を示し、議会に対して、迅速に改正審議を進め、その週のうちに表決を行うことを求めた。19日には、同長官は、議会に対して案の詳細を示したが、それは通信傍受のためのより効果的な手段を法執行機関に与えることや刑事法を改正してテロに対する罰則を強化することなどを内容とするものであった。こうした司法省の性急な要求に対し、議会は比較的冷静に対処したようにみえる。下院は20日に司法省職員からブリーフィングを受け、24日には司法長官を証人とする公聴会を行った。上院も25日になって、同じく司法長官を証人として公聴会を行った。10月2日に、下院では市民的権利の保護の観点から、司法長官の要望とは一線を画した法案(H.R. 2975)が提出され、12日に可決された。他方、上院では、10月4日に法案(S. 1510) が提出され、11日に可決された。両法案は重要な点で相違していたため、両院の司法委員会委員、共和党及び民主党指導部らの調整は当初長引くかに見えた。しかし、議会を巻き込んだ炭疽菌事件の結果、慎重論者の勢力が弱まり、法案の審議は加速された。結局、両院協議会を開催する道はとられず、上記の調整に基づき新たな法案(H.R. 3162)が作成された。この法案は、下院で10月24日に、上院で25日に可決され、26日には大統領の 署名を受けて「米国愛国者法」として成立した。
法律の構成
第1章は、テロに対する国内の安全性の向上を図るもので、反テロリズム基金の創設(第 101条)、電子犯罪対策本部の拡大(第105条)を定める。 第2章は、捜査権限の強化を定める。電話、携帯電話、コンピュータなどの通信を盗聴する権限が大幅に拡大、盗聴のための令状も「人さえ特定すれば」それであらゆる盗聴が認められた。また、FBIの翻訳者を増員したり、捜査官は令状の執行を通知することなく家宅等を捜査できるようになった。なお、法執行機関等によるプライバシー侵害の懸念から、第2章の主な規定は、2005年12月31日に失効するとの定めが置かれた(第224条)。 第3章は、マネーロンダリングの阻止について。同時多発テロは、航空機をハイジャックし、金融や国防の中枢に打撃を与える大規模なものであったが、テロリストの養成には多大な資金が投入されたとみられている。こうした国際テロ組織の資金源を断つことが、テ ロ予防の面からは重要であると考えられ、外国銀行と取引を行う米国銀行の義務を加重したりと、決められた。これについても、プライバシー侵害の懸念が強かったため、議会がこの章を無効とする合同決議を行う場合には、2005年10月1日をもって失効するとの規定が設けられた(第303条)。 第4章は、テロリストを水際で阻止することを図る。すなわち、カナダと接する北部国境の警備を強化するとともに、国境の安全性を向上させるためにテクノロジー利用を推進する。また、テロリストの支援者をも強制退去の対象とすることが明確化され司法長官はテロリストと認定した外国人を7日間までは無条件に拘束できる権限をもつことになった。その他、9月11日のテロ攻撃の被害者となった移民の救済のための特別措置が講じられた。 第5章は、テロ捜査に対する障壁を除去することを目的としており、行政機関間の相互協力や共同管轄(第504条、第506条等)、FBI の権限拡大(第505条)などを定めている。 第6章は、公共保安職員やテロの被害者及びその家族への補償と支援を定める。 第7章は、重要な基盤施設防護のための情報共有についてであり、州及び地方自治体の法執行機関との情報共有及び協力を向上させるプログラムを促進する。 第8章は、テロリストに対する罰則の強化を定める。主なものをあげると、大量輸送システムに対するテロが新たに処罰の対象とされ(第801条)、特定のテロ犯罪について、公訴期限が撤廃され(第809条)、サイバーテロの処罰要件が明確化され(第814条)、生物兵器の所持が新たに処罰の対象とされることとなった(第817条)。 第9章は、諜報活動の改善を図る。連邦政府の諜報機関はテロリストに関する情報を有する団体等と協力すること(第903条)、法執行機関は入手した有用な外国諜報情報を原則として中央情報長官に開示しなければならないこと(第905条)などが定められた。 第10章は、連邦と州及び地方自治体の協力について定める。州及び地方自治体が生物テロに対応するための連邦補助金プログラムに上院が重点的に取り組む意向が示され(第1013条)、また、連邦が州や地方自治体と協力して重要基盤を防護するための国家基盤シミュレーション分析センター(NISAC)の設置が定められた
参考
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/214/21401.pdf#search='愛国者法'
http://www.daiichi.gr.jp/syoukai/yanagi/2005autumn/iwahashi.html