アメリカの文化
出典: Jinkawiki
←前の版 | 次の版→
ハイブラウとロウブラウ
アメリカ合衆国はその建国の経緯からも明らかなように、様々な面でヨーロッパからの影響のもとで発展した。アメリカ文化史もまた、ヨーロッパ文化への憧れと反発の歴史という一面もある。あくまでもヨーロッパ文化のこだわりを捨てない文化人たちが根強く存在していたが、ヨーロッパ文化から「独立」した独自の文化を創ることが、アメリカ人の目標の一つであった。 ヨーロッパは歴然とした階級社会であったが、文化や芸術は貴族のもの(エリート文化)という考え方があった。しかし、このようなヨーロッパ型文化とは全く異なる文化を生み出して、ロウブラウや大衆文化が社会の重要な構造として発展したのが民主主義の国アメリカである。
ハイブラウ(highbrow)とは、学問や教養のある知識人の事であり、ロウブラウ(lowbrow)とはその反対に知識が乏しく教養の低い人という意味が一般的だ。しかし、このように学問や知識の違いの程度によって、いわば文化的階級の差異を強調するような見方は、現代では時代錯誤の旧式な定義になりつつある。 なぜなら、モダン・ジャズや、ポップ・アートのように、文化や芸術自体の「ハイ」と「ロウ」の区分が逆転したり、その境界が曖昧になったりしている中で、文化や芸術に関与する人たちの「文化的階級」を簡単に色分けできなくなってきているからである。ジャズもポップもアメリカ社会に深く根差した文化であるが、このようなハイとロウの転倒や混淆にこそ、民主主義の国アメリカの本質とこの国の文化の醍醐味がある。
ハイブラウとロウブラウという呼び方があるのと同時に、主にそれらの人たちが創造し支えてきたと考えられる文化や芸術も「ハイ」と「ロウ」の区分をすることがある。それぞれの文化的階級が創る文化の総体は、「エリート文化」(high culture)と「大衆文化」(popular culture)と呼ばれるものである。 特に芸術に限ってみるならば、一般に「ハイアート」(高級芸術)(high art)と「ロウアート」(大衆芸術)(low art)という区分がなされてきた。芸術における「ハイ」と「ロウ」の差異の基盤になってきたのは、アカデミズムや伝統との関わり具合である。つまり、アカデミズムや伝統を重視して、それらに添った創作に努めてきたのが「ハイアート」である。一般に受けての側に教養の素地が必要とされる場合も多く、堅苦しいとか難解だとみなされてしまうこともある。
宗教から食物に至るまで「文化」とみなされる領域は広いが、ここでは芸術に限って扱う。たとえば、オペラは高級芸術であるが、それに対してアメリカが生んだ偉大な大衆芸術がミュージカルである。視覚芸術では、19世紀までには聖書や神話を主題にした絵画や正統的な高級芸術であったが、20世紀に盛んに描かれるようになる抽象絵画の多くも高級芸術である。その対極にある大衆芸術が広告用の商業美術であり、また工芸品などのフォーク・アートも大衆芸術である。アメリカは大衆芸術の宝庫であるが、歌や踊りや漫才などを寄せ集めたヴァラエティ・ショーのヴォードヴィルや、黒人に扮した白人が演じるミンストレル・ショーと呼ばれる大衆演芸が盛んであった。20世紀に入り、映画が大衆に夢を与える芸術として登場した。ブルースやロック・ポップなどの大衆音楽は、アメリカが世界に発信し続ける大衆芸術の例である。
参考文献:『概説 アメリカ文化史』 編著者 笹田直人他 ミネルヴァ書房 2002年初版第1刷発行 :『ハイブラウ/ロウブラウ―アメリカにおける文化ヒエラルキーの出現』 著者 ローレンス・W. レヴィーン 翻訳 常山 菜穂子 慶應義塾大学出版会 2005年初版第1刷発行