インクルーシブ
出典: Jinkawiki
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1.インクルーシブの定義
国連ユネスコ特殊教育部門のレナ・サレー(Saleh.L)は「すべての子どものための普遍的な教育を実現しようと、学校制度が努力していく過程の中で、すべての子供たちに対して通常の学校が門戸をオープンに開いていく」という観点に立って、インクルーシブな学校(Inclusive School)を
①すべての児童・生徒が属し、受け入れられ、援助を受けられる場であり、同級生や仲間、学校社会の全員にサポートされる場
②子どもによって異なる学習スタイルやペースを受容し、それを育む場
③適切なカリキュラム、学校組織、リソースの利用、地域社会とのパートナーシップを通して教育の平等を保障する場
と定義づけている。
インクルーシブInclusiveとは、包含する、含まれるという意味である。
2.インテグレーションとインクルーシブ
(1)インテグレーション(統合教育) インテグレーションは、障害のある人もない人も、分け隔てのなく渾然一体のシステムが形成される状態をいう。
この概念は1981年の教育法にのっとる特別な教育ニーズのある子どもへの早期対策の本質である。障害者に対する政策の問題解決の鍵概念とされ、特に教育分野で、分離教育から統合教育へという形で強調された。特別な教育ニーズのある子どもが統合されると、彼らは通常学級に置かれ状況にうまく適応するよう状況にうまく適応するように子ども自身が変えさせられ、順応することを期待された。この考え方は、その子どもが出来る限りクラスに参加できるように教育意識や先生の配置を変えたとしても、その状況で必要とされている態度に変化を促すことはなかった。障害を持つ子ども自身が変化することを義務とされる教育と考えることもできる。 我が国では、学校教育のなかで「統合教育」として普通学級の障害児を積極的に受け入れる、また、併設された特殊学級に通う障害児と同学年のそうでない児童が一定の教科について一緒に学習する「交流教育」等が全国的に普及している。
(2)インクルーシブ
インクルーシブとは、障害があろうとなかろうと、あらゆる子どもが地域の学校に包み込まれ、必要な援助を提供されながら教育を受けること。障害があるからといって障害児だけの特別の場で教育を受けるのではないということである。
この概念は1996年頃からの実践の中核となったものであり、統合教育(インテグレーション)が、現実には形式的な場の統合になっている例が多いという問題への対応として提唱されたものである。特別ニーズ教育の充実によって、学校がさまざまな違いや多様なニーズを有する子どもの学習と発達、協同と連帯の場になっていくこと、「共学・協同と発達保障」の実現を追求する学校教育のあり方を示している。 子どもの支援方法は包括的にその子どもの障害をとらえること、あらゆる状況の観察に基づいている。その状況にいるすべての人が関与すべきであると考えられる。
(3)インテグレーションとインクルーシブの違い
一つ目に、必要な援助が提供された上で、統合された環境で教育を受けるという点である。従来のインテグレーションはこの「必要な援助」が位置付けられておらず、学ぶ場(物理的な環境)が統合されたというだけであった。 二つ目に、「必要な援助」を提供されるのは障害児だけではなく、子どもはそれぞれに特別なニーズをもち、そのニーズに対して配慮がなされなければならないという考え方である。インクルーシブではすべての子どもに、必要とされる個別の援助を提供することが強調されている。普通学級、また就労ならば一般企業など障害のない人と同じ場で、それぞれの特別なニーズに応じて、必要な援助が提供されるということである。
3.インクルーシブのメリット
(1)子どもは障害に関係なくすべての仲間と関わることで利益を得られる。 行動上の問題がある子どもを肯定的で適切な行動が出来るように促進していく支援者は他の子どもにとっても非常に優れたモデルとなる。また、他の子どもも肯定的な方法でその子に関わるだろうし、同様に他の子どもの関わり方にも良い影響を与えるだろう。
(2)支援者や支援の場に関わる周囲の大人は、特別なニーズをもった子どもとの関わりによって利益を得られる。 行動上に困難のある子どもに対する支援者が望ましい態度を示すことは、その子どもと相互に関わっている他の大人にも影響を与える。不適切な行動に隠れていた本来のその子どもの愛すべき姿を知るようになると、大人が抱く根拠のない話や誤解を訂正することができる。
(3)子どもやその両親が肯定的でインクルージョンされた就学前教育を受けていると、保護者は小学校の普通学級を選ぶ傾向にある。 もし、支援者が子ども自身ではなく子どもの行動に問題があることに気がつくと、肯定的な行動を促進するため、支援者と両親が協力して効果的な方略の計画を立てることが出来る。このことが後々には両親がわが子を継続して普通学級に入れることを選択するきっかけとなる可能性がある。
(4)特別な教育ニーズのある子どもの保育や教育に良い実践をすることは、同じ環境にいるすべての子どもにとっても行動の改善につながる。 波及効果のように支援者が行動上の問題がある子どもと一緒に活動するために、望ましい行動への方略を計画すると、彼らは特別な教育ニーズを持つ子どもに対しても他の子どもに対しても、自然と肯定的で効果的な方法を考え出すことが出来る。
4.インクルーシブ実践におけるポイント
(1)行動上に困難のある子どもたちを含め、彼らの障害にかかわらずすべての子どもが一緒に活動することを保障する。
(2)必要であると思われた場合、行動上に困難のある子どもが地方教育委員会の行動支援サービスなどから支援を受けられるように手配する。
(3)障害にかかわらずインクルーシブできるよう、全ての子どもに対する支援の場の態度、実践内容、方針の変更を可能な限り行う。
(4)適切で支援的なカリキュラムを立案する際に、子どもの強みや能力に注目する。
(5)違いを普通のこととして受け入れる、同じ年代の他の子どもたちの行動とその子どもの行動に違いがあっても、決して否定的に子どもを見ない。
(6)行動上に困難がある子ども自身の見方をたずね、それに基づいて行動する。 こうすることで子どもは大切にされていることやサポートをしてもらっていると感じることが出来、結果として徐々に彼らの適切な行動が増えていくだろう。
5.参考文献
・日本教職員組合障害児教育部編(2007)『特別支援教育からインクルーシブ教育へ 実践のための提案と指針』 (株)アドバンテージサーバー 239pp
・安藤房治(2001)『インクルーシブ教育の真実 -アメリカ障害児教育リポート-』学苑社 222pp
・コレット・ドリフテ著、納富恵子監訳(2006)『特別支援教育の理念と実践』ナカニシヤ出版 101pp
・「JICA knowledge Site-分権問題‐社会保障‐基本知識」 http://gwweb.jica.go.jp/km/FSubject0601.nsf/VW0101X02W/DE0DD5D7EA4474FE492575E100274C28?OpenDocument&sv=VW0101X15W