愛媛玉串訴訟

出典: Jinkawiki

愛媛玉串訴訟(えひめたまぐしそしょう)とは、愛媛県知事(白石春樹)が靖国神社及び県内の愛媛護国神社に対し、毎年玉串料を戦没者の遺族の援護行政のために支出した行為について、最高裁が違憲判決をした訴訟である。当時の県知事らを相手とって、訴えが提起された住民訴訟である。ただし裁判官15名のうち2名は合憲とした。この判決は、最高裁が政教分離に違反するとして違憲判断をした初めてのものであった。この違憲判決は、国または地方団体が特定の宗教団体の宗教行為に直接関与することが憲法上許されない、ということが明らかにされた。


訴訟理由

愛媛県知事が、靖国神社が挙行していた例大祭や慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出していた。この行為は日本国憲法20条3項および89条に違反するとして、愛媛県知事に対し指揮監督上の義務に違反しているとして、真宗の僧侶を原告団長とする愛媛県の住民団体が損害賠償訴訟を提起した。


日本国憲法

第20条[信教の自由、国の宗教活動の禁止]

①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


第89条[公の財産の支出、又は利用の制限]

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。


裁判要旨

1、県が靖國神社又は護國神社の挙行した例大祭、みたま祭又は慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出して奉納したことが憲法20条3項、89条に違反するとされた事例。

2、複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において共同訴訟人の一部の者がした上訴又は上訴の取下げの効力は有効である。 となっており、争点は以下の3点である。

・憲法20条3項の禁止する宗教活動とは何か。

・この玉串料の公金支出は憲法20条3項に違反するか否か。

・本件玉串料の公金支出は憲法89条に違反するか否か。


経過

1審の松山地裁は、県と靖国神社の結びつきが相当な限度を超えた宗教的活動である、として違法であると判断した。しかし2審の高松高裁では、宗教的意義はあるが公金支出は小額であり社会的儀礼の程度であるため、玉串料を出した知事の行為は遺族援護行政の一環であり、宗教的活動に当たらないとして合憲とした。

最高裁では、1997年4月2日に判決文のうち2審が合憲とした部分を破棄し、愛媛県が公金支出した玉串料は、香典など社会的儀礼としての支出とは異なり、靖国神社という特定の宗教団体に対して玉串料をするもので援助・助長・促進になるとして憲法20条3項の政教分離と同89条に違反するとした。これは「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる」か否かで判断する政教分離原則のひとつの目的効果基準を検討したうえで違憲違法と判断された。

そのため住民が請求した玉串料として支出した9回で合計4万5000円などを愛媛県知事が県当局に返還するように命じたものである。これは僅かな金額の支出であっても、宗教団体への公的機関による公金支出の違憲か否かの判断基準である「目的効果基準」を厳格に適用したものであった。これは、宗教的儀式の形式であっても、宗教的意義が希薄化した地鎮祭などの慣習化した社会的儀式とは違い、靖国神社という特定の宗教団体が主催する重要な宗教的色彩の強い祭祀と関わりを、県が玉串料の支出を通して持つものであり、国もしくは地方公共団体が宗教的意義を目的とした行為であり、特定の宗教への関心を呼び起こす危険性が重要視されたものである。


その後の経緯

最高裁判決以降、靖国神社への公金支出は控えられるようになった。しかし、この判決は政治家による靖国神社への参拝に対して違憲判決をしたものではないため、政治家による靖国神社参拝にはほとんど影響を与えていないとされる。また公費ではなく私人として私費で支払うのは容認されているとされる。また各地の遺族会主催の英霊慰霊祭のなかには地方自治体の首長が参加しても問題がないように、無宗教式で開催されるところもある。


参考文献:センター試験政経(河合塾2005テキスト)、高等学校教科書「現代政治・経済」(清水書院)、ウィキペディア http://jinja.jp/modules/jikyoku/index.php?content_id=21 http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Apricot/5068/shinkyou.html


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