負の遺産

出典: Jinkawiki

世界遺産のうち、戦争や虐殺など、人類が犯した過ちの跡をとどめる物件。世界遺産条約には明確な定義はないが、以下のものが代表される。

1.アウシュビッツ・ビルケナウ ナチス・ドイツの強制絶滅収容所(1940-1945年) 第二次世界大戦のさなかドイツが推進した人種抑制政策ホロコーストの惨劇の舞台となった最大の場所である。多くのユダヤ系民の他、政治犯や他国の捕虜もこの収容施設へと送られ殺戮の後焼却処分されていた。 1945年にソ連によってこの収容所は解放されたが収容された推定人数の50万人のうち終戦で解放された収容者の数は全体の1割未満の9000人だとも言われている。 収容者の中には15歳の若さで亡くなりアンネの日記で有名なアンネ・フランクや1986年にノーベル平和賞を受賞したエリ・ヴィーゼルなど有名人も数多くいた。 戦争下において行われた残虐な人種撲滅計画において多大な犠牲者が出たこと、またその惨劇を後世へと語り継ぐため1979年負の遺産としてユネスコ世界遺産に登録された。

2.ロベン島 ロベン島は南アフリカ共和国のケープタウン沖合にある約5.5k㎡の小さな島で、ロベンはアザラシを意味するオランダ語から来ており、現在ではアフリカペンギン(ケープペンギン)の貴重な生態の保護に力が注がれている。 島を取り巻く環境からその大部分は17世紀の終わりから刑務所として使用され1836年から1931年まではハンセン病患者の隔離施設として、1959年から1996年まではアパルトヘイト(人種隔離)政策に対する反政策者に対する強制収容の場としても使用されていた。その中には後に第8代南アフリカ大統領として南アフリカを率いていったネルソン・マンデラ(1918~2013)や同じく政治家として活動したウォルター・シスル(1912~2003)なども収容されていた。 1997年に島全体が博物館として一般公開された後、黒人に対する人種隔離政策の記憶を伝える負の遺産として1999年にユネスコ世界文化遺産に登録された。

3.ヴォルタ州、グレーター・アクラ州、レントラル州、ヴェスタン州の城塞群 アフリカ西岸ガーナの海岸に沿ってこの城塞郡はある。15世紀以降西洋人の入植の後様々な品が貿易のためにこの海岸から輸出されていて、その交易品には現地住民の黒人が奴隷として多く含まれており、これを含めゴールド・コースト(黄金海岸)、スレーブ・コースト(奴隷海岸)、ペッパー・コースト(胡椒海岸)は当時の三大交易品の交易地として時の経済を支えていた。 しかし奴隷に関してその扱いは家畜以下として扱われ、人権そのものは無いにも等しく、多くの犠牲者を生み出した。またその大多数は労働年齢に各当する男性ばかりであり、今日のアフリカ経済発展の延滞の要因の一つとされている。黒人に対する差別や人権の軽視、奴隷制度においての悲劇の語り継ぎ・制度撤廃を求めめる象徴として11の関連施設が1979年に世界文化遺産として登録された。


4.ビキニ環礁核実験場 冷戦下で東西では核兵器の製造と性能の向上のため多くの核実験が行われた。そのひとつがマーシャル諸島に属する23の島ビキニ環礁である。 この環礁ではアメリカ合衆国が1946年から1958年にかけて延べ12年間で23回にも及ぶ核実験を行った。その中でも1954年に行われたブラボー作戦では水爆が実験に使用された。 その周辺海域では日本のマグロ漁船第五福竜丸をはじめ約千隻もの漁船が操業しており実験による死の灰を浴びた多くの人が被爆し、その内日本人船長一名が亡くなるという事件が起きた。 実験によって生じた放射能の影響で周辺の島の住民は強制的に避難させられていて、今なおその帰還の目処はたっていない。核兵器製造の時代背景とそれがもたらした生態系への影響に関して後世へと語り継ぐため2010年に負の遺産としてユネスコ世界文化遺産に登録された。

5.原爆ドーム 当時はモダンな建築物として市民から愛されており、建物自体は広島県産業奨励館として数々の産業品陳列会場などで使用された。原子爆弾が炸裂した地点からわずか200mしか離れておらず原爆投下直後に内部にいた政府関係職員約30名は即死したと推定されている。 今日の世界平和にはなくしては語れない誰もが知っている平和祈念牌で、1945年8月6日に広島で炸裂した原子爆弾リトルボーイは一発で数十万人の命を奪った。原爆という核兵器の最初の犠牲の地となった広島でひっそりとその惨禍を後世に渡り伝えている。 核兵器の残虐性とその非人道的観点から後世へと平和の尊さを語り継ぐ象徴として1996年に負の遺産としてユネスコ文化遺産に登録された。

【参考文献】負の遺産から学ぶ 熊本日日新聞社 原田正純

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