アメリカの道徳教育

出典: Jinkawiki

1. アメリカ人の「道徳観」の変遷

アメリカ人の「道徳観」や「価値観」が大きく変化したのは第二次世界大戦後だといわれている。特に1960年代は価値観の多様化と相対主義(全てを他との比較によって捉える、相対的な考え方)が進み、家族の人間関係や個人の国や社会に対する考え方も大きく変わった。

そんな中、学校現場の教師達はそのような「価値相対主義」で教育を進めていくことに対し、「自分の価値を相対的とし、教えること」、「価値を教えることは憲法違反ではないか」という議論が勃発した。また、「価値観」を教える教育に消極的になっていく教師もいた 。 1960年代後半になると、「道徳観」について2つの考え方が現れた。

1つ目は「価値の明確化」で、これは教師が「価値」を教え込むのではなく、もともと子ども自身が選び、もっている「価値」についてのみ、明確化させ、自覚させようという動きである。そして2つ目は、ハーバード大学教授であったローレンス・コールバーグ(L.Kohlberg 1927~1987)が研究を進めた「道徳性の発達段階」である。これは、ピアジェ(Piaget,J.)の「道徳性発達段階」をさらに精選した理論で、人間の道徳性には一定の発達段階があり、道徳教育とは、このような「道徳性」の発達を促進させることであるという立場だ。

しかし、1990年代になると、70・80年代に曖昧であった「価値観教育」に対し青少年の問題行動が深刻化しつつあった。そこで、世間は危機感を感じ、学校教育に「価値観」を教えるべきだと考えるようになった。そして、T.リコーナ博士は『品性の教育』(1991年)で、

「価値多様化社会にあっても、次世代を担う青少年に伝えるべき価値について合意は可能である」

(インターネット:「現代の倫理道徳Q&A」より)

と考えた。この考え方で、学校が中心的となって「価値観」を教え、実際に行動できるような「道徳性」を身につけることが必要であるという「道徳教育」は広く国民に支持された。

1996年になると、クリントン大統領が議会の一般教科書演説で、全ての学校に道徳教育の実施を要請した。


2. 現在の学校教育における道徳教育

学校教育において道徳(徳育)教育はどのような位置づけであるかというと、以下の通りである。

○ 学校教育では徳育に関わる教育として、米国市民としての「責任」と「権利」について教える「公民教育」(civic education)が行われている。

○ しつけや人格形成のための教育は、一般に、家庭や地域における青少年活動、宗教活動等の私的活動に委ねられている。しかし、近年の青少年の問題状況の深刻化を背景として、こうした教育についても、家庭、学校、地域社会の三者の連携協力が強く求められるようになっており、学校への期待が高まっている。

○ 学校現場で宗教教育を行うことは憲法で認められていない。ただし、宗教を客観的、中立的な立場で教えることは認められている。カルフォルニア州では、公立学校において宗教を歴史事実として教えられることが求められている。

(「諸外国の初等中等教育」 文部科学省 編 P202~『4.徳育 アメリカ合衆国 1.学校教育の基本的役割』より抜粋)

アメリカでは日本のように「道徳教育」そのものを教育課程に含んでいるのではなく、州によってだいぶ違いはあるが、州教育法等で公立初等中等学校では「公民教育」を実施している。また、「公民教育」は独立した教科ではなく、教科横断的な指導、学校行事等の中で教える州が多い。

徳育教育の目標としては、

① 公共の涵養と基本的人権を尊重する精神の育成 ② 社会に主体的に参加する態度の形成 ③ 公共心や基本的人権の理解あるいは社会参加に必要な知識の習得 であると掲げられている.

(「諸外国の初等中等教育」 文部科学省 編 P202~『4.徳育 アメリカ合衆国  2.目標・内容』より抜粋)

徳育教育の教育方法・手段としては、①公民教育 ②人格形成のための教育 ③ボランティア教育(学校地域の奉仕活動参加など) ④薬物防止教育 などが学校教育でおこなわれている主な徳育方法である。


参考文献&URL

 「道徳を学ぶ」 酒向健 編者 福村出版

[ http://rc.moralogy.jp/qa/2001_34.html ]

 教育調査第128集 「諸外国の初等中等教育」 文部科学省 編 


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