ゼロの概念

出典: Jinkawiki

私たちが日ごろ目にする数字には、一、二、三などの漢数字、I、II、IIIなどのローマ数字、 1, 2, 3などのアラビア数字がある。 この中で、言語の境界を越えて、現在世界で最も使用されているのはアラビア数字である。実はこのアラビア数字こそが、インド数字の直系の子孫である。インド数字は、8世紀頃アラビアに伝わり、さらにアラビアから10, 11世紀頃、西ヨーロッパに伝わり、現在の姿になった。 アラビア数字(Arabic numerals)という名称は、当時のヨーロッパ人がつけた名前だが、それが現在でも使われている。アラビア語では、現在でも、このアラビア数字をインド数字とよんでいる。現在のアラビア語で使用する「アラビア数字」も、やはりインド数字の変種で、アラビアで独自に変化したものである。ちなみに右から左に向かって書かれるアラビア文字は、数字は左から右に向かって書かれる。 このように、インド系文字がインドから東南アジアなど東方に伝播したのに対し、インド数字は、アラビアを経由してヨ-ロッパなど西方に伝わった。 アラビア数字、つまりインド数字を使用する記数法が他の記数法よりも格段にすぐれているのは、ゼロを利用した「位取り」ができるからである。 8世紀頃インドからアラビアに伝わった「ゼロ」(サンスクリット語でshunya シューニャ)は、アラビア語で sifr スィフル「空(から)」と翻訳された。この sifr が、13世紀のはじめ、アラビア記数法(つまりインド記数法)が伝わったイタリアでラテン語化して zephirum となり、最終的には zero となった。一方、中世ヨーロッパの数学界では「ゼロ」をあらわすために、もとのアラビア語とほぼ同じ語 cifra を長く使い続けた。英語のcipher の語源はここからきている。英語のcipher のもつ意味のうち「暗号、符丁」は、当時の一般の人々が「ゼロ」に対し抱いていた神秘や秘密なものへの驚きの名残であるといわれている。 6世紀頃に位取り記数法が行われるようになり、7世紀初めごろのインドの数学者ブラーマグプタの書物には、「いかなる数に零を乗じても結果は常に零であること」、また、「いかなる数に零を加減してもその数の値に変化がおこらないこと」という零の性質が記載されているという。このようにインドで使われるようになった「ゼロの概念」は、便利な記数法としてアラビア人の手をへて十字軍やイベリア半島でヨーロッパに伝えられ、それまでのローマ数字の記数法に代わって「アラビア数字」として用いられるようになった。1202年にピサのレオナルドという人物がインド記数法とそれによる商業算術をヨーロッパに伝えたという。その記数法は、紙の使用とともに急速に広まった。


≪参考文献≫

『零の発見』吉田洋一著(岩波新書 1939年)

『イスラーム文明の発展』

『インド数字』

http://www.yk.rim.or.jp/~kimihira/yogo/03yogo02_1.htm#075

http://www.aa.tufs.ac.jp/i-moji/suuzi/index.html


  人間科学大事典

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