フィンランドの理科教育

出典: Jinkawiki

フィンランドの教育の特徴は多岐にわたる。

・すべての国民に対する平等な教育機会の提供

・自己実現を目指した自立した人間の育成

・すべての教科での読解力育成

フィンランドは、個人の自己実現を目指す国であり、日本のような競争社会ではない。理科教育を通して起業家精神を養成するというように、さまざまな場面で自分の意見を求められ、進んで自己啓発に取り組むなど個の自立を目指した教育が行われている。中でも、「理科教育での読解力育成」といったように、すべての教科教育の基礎として子どもたちの読解力の育成が重視されている。あらゆる学びの基礎に読解力が必要不可欠であるという理念があるからである。もともとフィンランドの国民の多くは、週末や休暇は電気も届かぬような森で過ごすというライフスタイルをとる。そして、そこには多くの書籍が持ち込まれる。しかし、単なる読書の量だけでなく、森での自然とのふれあいや生活体験は、物を読み解く力や心情を豊かにし、読解力を育む上で重要な役割を担っている。ところが、1995年に国内で実施した学力調査での読解力低下を受け、1997年を「読解力年」とし、2001年から2004年までルクスオミプロジェクトを実施した。そこには7つのプログラムが用意され、各教科での読解力の育成を強く求めている。フィンランドでは、1993年に教科書検定制度が廃止され、よく1994年に学習指導要領の内容が大きく縮減された。初等理科全体では、4年生まで学ぶ「環境と自然学習」が4ページと4分の1の記述に留まる。その内容は、科目のアウトラインが簡単に記載されているほかは、生徒の到達目標と内容、明確な評価基準が箇条書きされているだけである。また、5、6年生で学ぶ「生物と地理」では3ページ半、中学生にあたる7年生から9年生までの3年間の「生物」では、わずか2ページ半の記載である。これは、教育の分権のもと、地方自治体にカリキュラム編成の自由度を与え、学習内容の工夫と弾力化を狙うためである。その背景には、教師の理科カリキュラム編成能力や学習指導力の高さがあることは言うまでもない。地方自治体は、この学習指導要領をもとに各地区独自の理科カリキュラムを編成するのである。この作業には、行政や教育関係者だけでなく一般市民も多く参加する。そこでできたカリキュラムは、さらに各学校にある伝統の独自カリキュラムとの整合性を図りながら、各学校の特色ある理科の教育課程が生み出されているのである。なお、2004年から改訂された現行学習指導要領では、より早い段階から高度な理科の内容を学ぶことができるように修正が図られている。例えば、従来7年生で学んでいた「核」や「葉緑体」といった細胞の微細構造や、「陽子」や「電子」といった原子の構造やイオンは、5年生から登場する「生物と地理」で学習するようになっている。フィンランドの現場調査で、この修正内容はもともと前回改訂直後から理科教育の現場教師たちが前倒しで実施していたもので、後付けの形でこれら学習指導要領の改訂が行われたことが明らかになった。教師の力量と行政の柔軟性をうかがわせる一例といえよう。


参考文献 『フィンランドの理科教育』(2007) 鈴木 誠  明石書店


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