フォルケホイスコーレ

出典: Jinkawiki

[成り立ち]

フォルケホイスコーレの始まりは、今から150年ほど前になる。 デンマークは、ドイツとの戦争に負け、広い領土を失い、国家財政の破綻寸前であった。 一時はイギリスとフランスについで、ヨーロッパでも最も有力な王国のひとつであったが、フランス革命の影響をうけ、専制王国の終焉をむかえていた。そして、議会民主制による民主的な国への再建に希望がもたれていた。しかし、当時のデンマークは、まだ農業が主な産業であり、民主主義の主役であるべき国民の8割以上が読み書きの出来ない農民だった。 国の再建に夢を託した政治家や文化人は、この農民や農民の子弟たちの教育に望みをかけた。この動きの中で、最も大きな役割をはたしたのが、神父であり、詩人であり、政治家であったグルントヴィであった。彼は、国民の意識をたかめるために「フォルケホイスコーレ」(国民高校学校)の設立を提唱し、その考えは、多くの賛同者を、地方各地に住む有志が先頭となってフォルケホイスコーレが作られていった。それは社会的運動といってよいほどの勢いで、全国各地にその動きが広まり、1864年から1872年の8年の間に61のフォルケホイスコーレが発足された。

[特質]

フォルケホイスコーレの特徴はいくつかあるが、その中の一つは、寄宿制であること。当初は、冬の長い農閑期に地方から集まってきた若者が、数ヶ月の間、学校の寄宿舎で生活をともにして学んだ。もう一つの特徴は、その教育方針だ。農業技術や簿記などの実用的科目よりは、歴史や詩などいわゆる教養科目的な内容に力が入れられた。同じように、読み書きを中心とした理論的な科目よりは、講演やサークル勉強会による「生の言葉」による教育が重んじられた。話合いを通して、人々の内にある「心の灯」に灯をつける啓発によって、自らが意識を勝ち取っていくプロセス、これがフォルケホイスコーレの教育的な基本となった。それは、理性や知の頂上から下にいる民衆を教育しようとする啓蒙主義とは一線をひいていると言える。このように本人の内的な動機付けと、共同生活をとおしてエゴイズム的な「自分」を超えて、社会性を持った「自己」の形成が、「フォルケホイスコーレ」の教育の特徴といえる。

[今日のフォルケホイスコーレ]

かつて、フォルケホイスコーレは主に地元の裕福な農家たちの援助によって運営されていたが、現在では、民間学校法人として経営されている。とはいえ、運営費の7割から8割は国の予算によって賄われているので、半公営ともいえる。2005年度には全国に約80校あり、年間合わせて、一年齢層の約1割弱にあたる5000人ほどの若者が受講する。受講生の典型的な年齢層は、20−22歳のくらいの男女である。コースの期間は1週間単位の短期コースから、2−3ヶ月から6ヶ月くらいのコースが一般的であり、受講するためには18歳以上の成人であるという以外は、資格もなにも要求されないし、逆に、受講しても特別な資格も取得することができない。 規模としては、最低40名くらいから130名ほどまでが普通である。また、生徒をひきつけるために、各校、いろいろ特色をもたらせている。カリキュラムは、音楽、絵画、工芸、演劇、ダンス、スポーツ、アウトドアライフ、航海など「身体」を使って「体験的」に学ぶ科目に人気がある。マルチメディア、デザイン、設計、映画制作などもこの類に入るだろう。他方、歴史、文学、外国語、自然科学、心理学など伝統的で、一般教養的な科目に匹敵する内容のものは、あまり人気がない。 さらに、「観光産業」や「イベント産業」が行っていることあまり変わらない内容を売り物にしているところも僅かにある。ゴルフ、ラフィティング、ラペリング、スキー、スノーキング、発達途上国ツアーなどの科目が目に付く。 こうみると、現在のフォルケホイスコーレの特徴は、一言で言うとすると、それは「体験型」の教育だということになる。そして、同時に「生の言葉」による対話的学習と、共同生活を通して生徒の「自己形成」を今でも大切にしている。


参考文献

生のための学校   ~デンマークで生まれたフリースクール「フォルケホイスコーレ」の世界~  清水満

社会人のための北欧留学   ~デンマークのフォルケホイスコーレ+ワーキング・ホリデー ~  北欧留学情報センター


投稿者  F.F.C


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