ブラジルの中等教育改革

出典: Jinkawiki

ラテンアメリカ諸国では、初等教育の就学率は90%を超えている国が大勢を占めるようになり、普遍化の水準に近づいている。中等教育を受ける子どもの割合はまだ限られているものの、急速に拡大している国が多い。しかし落第、留年、中途退学が多い事は依然として大きな問題であり、ラテンアメリカ諸国の教育はまだら模様の発展を遂げている。域内の大国であるブラジルもその例に漏れないが、1990年代から注目すべき変容を遂げつつある。1990年の「万人のための教育」世界会議以来、開発における教育の重要性が認識され、グローバル化及び知識社会に向け、基礎教育の普遍化と質の向上、さらに質の高い高等教育の提供がブラジルの重要な国家政策の1つとなった。ブラジルでは成人レベルの教育の不足は大きな問題であり、15歳以上の非識字率は国全体で12%、地域によっては23%を超え、50歳以上では26.6%に達している。10歳以上の人口で、教育年数が8年に満たない割合は、59%に上回る。初等教育は90年代中に大きな改善を見せ、5つの地域いずれにおいても純就学率が90%を超えた。しかし、落第、留年、中途退学に見られる質の問題はなくなったわけではなく、標準年齢を超えた生徒の割合は、2000年度、ブラジル全体で41.7%に達し、北東部では60%を超えている州も珍しくない。初等教育の普遍化と同時に、教育の内容や運営など質や効率の問題も深刻である。 他方、初等教育卒業者の増大は中等教育の急速な拡大を引き起こし、中等教育(普通科は15歳から17歳の3年間であり、専門課程はさらに1年を要する。)在籍者数は1000万人に近づいている。中等教育はブラジルでは「基礎教育」の最終段階とされており、初等教育と高等教育をつなぐ役割と同時に、社会に巣立つための完成教育という役割を担っている。そのため中等教育は、普通教育と職業教育という2つの性格を持たざる得ない。ブラジルは中等教育就学者の急速な拡大に対処することとともに、この2つの役割と2つの性格という二重性をどのように扱うかをめぐって困難な課題に直面している。

ブラジルの教育の基本は1988年憲法で定められており、その規定を実現するプロセスそのものがブラジルの教育改革である。具体的には、1996年の教育法と2001年の国家教育計画が政策目標の基礎となっている。基本教育法では、中等教育の段階的な義務化と無償化が国の義務とされている。中等教育の期間は最低3年間、その提供は主に州の責任である。教育中等教育の目的は、①初等教育で得られた知識の確立と進化、②労働者および市民としての基礎的準備、③倫理的・知的・人間的形成、④生産過程の科学的・技術系的原理の理解、とされている。 2001年の国家教育計画の診断では、中等教育への就学率が他のラテンアメリカ諸国よりかなり下であることを述べ、標準年齢超の生徒の多さ、働きながら通う生徒の多さと夜間部の規模の大きさ、進級率の低さを指摘しながらも、就学者が急速に増大している事は良い徴候と見ている。しかしながら、中等教育はどのような目的と制度を持つべきかという方向付けが不明であること、また科学・数学の教師が不足していること、高等教育との競合で資金の調達が難しいことを問題としている。 この診断に基づき、目標として①基礎教育の物理的な基盤を整備し10年以内に中等教育志望者全員を就学させることができるようにする、② 5年以内にカリキュラムの新しい概念を確立する、③生徒の学業達成率を高める、④毎年5%ずつ、留年と退学の率を減らす、⑤ 5年以内に全教員が高等教育終了の水準を達成する、⑥ 5年以内に学校として最低限の設備を整える、⑦前記設備のうち必須部分を備えない学校を閉鎖する、など数値的目安も含む20項目を定め、2年から10年以内に達成すると宣言した。 これから見て、ブラジルの中等教育は希望者全員の就学実現のための物理的条件作りを始めとして、カリキュラム編成や教員の資格向上など、制度全般にわたる整備を行おうとしていることがわかる。現在はその目標に向かって、連邦中心に財政や制度、学校運営にわたる多様な計画が実施されているところである。


参考文献 ラテンアメリカの教育改革(2007) 牛田千鶴 編集  行路社

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