ブラジルW杯
出典: Jinkawiki
デモ吹き荒れるブラジルでW杯を開催すべきか
史上最多となる5度のワールドカップ(W杯)制覇の実績を誇り、サッカーに対する深い愛着を持つブラジル。1年後のW杯の開催国で20日、100万人規模の大規模デモが発生した。経済成長で豊かになり、五輪の招致にも成功したブラジルだが、世界が注目する“国技の祭典”の開催に暗雲がたれこめている。
ブラジルは労働党政権下のこの10年間で、国民の約2割が貧困層から中間層に移行した。新興5カ国(BRICS)の一角として国力を増しW杯招致にも成功。現在、スタジアム関連施設に約150億ドル(約1兆4500億円)を投じて工事を急いでいる。
しかし、国家の威信をかけて関連施設の建設を進める一方、社会基盤の整備がおろそかになった。学校や病院施設は貧弱で国民の不満は強い。デモは公共交通機関の料金引き上げが発端となったが、最低賃金の月額約350ドル(約3万4千円)を受け取る低賃金労働者にとり、乗車料が1・4ドルから1・5ドルへと上がることは容認し難い。スタジアム建設の巨額資金は「税金の無駄遣いだ」と反発を招いている。
ムボンベラ・スタジアムは、南アフリカの東部、有名なクルーガー国立公園の入り口にあたる場所にあるが、1億ユーロも掛けて造ったというのに、今では、1年365日のうち、少なくとも360日は遊んでいるという。 周りの住民は、このスタジアムの建設期間中だけは仕事にありつけたが、現在は失業率が40パーセントを超えている。そのうえ、インフラが整ったかというと、それも覚束ない。今も多くの住民は大会前と同じく、水道や電気の完備していない生活をしているというし、スタジアムを建てるために強制的に立ち退きをさせられ、家のなくなってしまった人もいる。
実は、南アフリカのサッカー連盟(FIFA)のワールドカップにおける収入はかなりの額に上ったらしいが、賄賂の蔓延している国は、せっかくのインフラ建設のチャンスをものにすることさえできない。
お金の一部は子供たちのスポーツ教育につぎ込まれるはずだったのに、すべては机上の空論に終わっていて、その代わりに、サッカー連盟の幹部たちが、高級車を乗り回しているという。
「南アフリカのような広い国で、車がなければ、スポーツ教育の発展に貢献したいと思ってもできないから、これがまず必要」というのが理由だそうだ。60億ユーロという莫大な税金の費やされたワールドカップは、南アフリカの経済発展にも教育の改善にも、ほとんど寄与しなかった。
だから、そう考えれば、今、デモをしているブラジルの人たちは偉い。派手なイベントに、決して目をくらまされていない。今の状態では、ワールドカップは国民の利益にならないと冷静に見きわめ、税金の無駄使いに走りそうな政府に、ブレーキをかけようとしている。
つまり、ワールドカップとオリンピックの誘致に成功し、得意満面、自分の栄誉にばかり気を取られている政治家たちに苦言を呈しているのが、今のデモの実態である。
デモに参加している若い男性がインタビューのマイクを向けられ、「いくら立派なスタジアムができても、僕の子供が病気になったらスタジアムではなく、病院に連れていかなければならないのだ。ちゃんとした医療を受けられることの方がサッカーよりも大切」と言っていた。
ブラジルでは、医療費がこの1年で6%も値上がりしたという。それどころか、皆が医療を受けられる平等な医療保険制度が存在しない。
ブラジルという国について、私たちはあまり知らない。総人口は2億に近く、世界第6位の経済大国、面積は世界で5番目。200種族ものインディオがいるらしいが、インディオの数は全部合わせても全人口の1%ほどである。一番多いのは、昔、アフリカから連れてこられた黒人奴隷をルーツに持ついわゆるアフリカ系の人たち、2番目が意外にもドイツ系。これは日系と同じく、20世紀の初めに貧困から逃れるために渡った人たちが多い。3番目がこの国を侵略したポルトガル人の子孫、4番目がイタリア系で、その次に、日系とウクライナ系がほぼ同数で続く。
就業者の3分の1は農業に従事していて、輸出の半分が農産物だ。特に、砂糖、大豆、コーヒーは世界市場を制覇している。また、自動車の生産は世界6位で、航空機に至っては世界第3位の生産を誇る。
そういう意味では決して発展途上国ではないが、生活の質を測るものとして国連が毎年発表する「人間開発指数」では、世界で85位(2013年)というから、せっかくの富が偏在しているのだと思われる。治安も最近までとても悪かったし、今もあまりよくない。
ただ、人々が生活に満足していなくても、犯罪が多くても、今までこの国は比較的安定していた。大がかりな抗議デモも、もう20年以上も起こらなかった。ここの国民は、皆が集まれば抗議デモではなく、サンバを踊っていたのだ。有名なリオのカーニバルには、毎年300万人が集まる。その、根っから陽気な人々が、今、珍しく怒り始めたのである。
参考資料
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38146
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130622/amr13062200580000-n1.htm
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