メタ認知

出典: Jinkawiki

目次

メタ認知の前に

 メタ認知の内容に入る前に「認知心理学」とは何かに関して述べる。

 認知心理学とは、人間の認知活動(見る、聞く、考える、理解する、記憶する、コミュニケーションをとるなど)について研究を進めていく大変幅広い学問である。この認知心理学は心理学の中でも比較的新しいものとされており、1950年代の後半に成立された学問である。人間の認知的な機能を主として扱った研究は1950年代前にも存在していたが、認知心理学の特徴として挙げられるものとしてまず、「人間の認知機能に関する科学」という概念が挙げられる。認知機能とはものを知ることに関するあらゆる機能をさす。抽象的に述べるのなら「知情意」(知性、感情、意志)という人間の持つ三つの心的要素の内の知にあたる知性のことをいう。知性とは広義に知的な働きの総称をいう。狭義としては感覚により得られた素材を整理、統一して認識に至る精神機能をいう。これは例えば、外界の状況」を知ること(知覚)や経験したことを覚えておくこと(記憶)、問題を理解したり解決したりすること(思考)などが認知の主なものである。また、人間の感情と意志は知性と様々な相互関係、繋がりを持っているため知性だけではなく感情や意志も認知心理学の範疇に加わっているのである。

 しかし、この特徴よりも認知心理学を扱う上で最も重要となってくる特徴が「情報処理モデルに立つ」というものだ。この情報処理モデルを具体的に説明すると人間を情報処理システムとみなしてその仕組みや情報処理の仕方や方法を記述するモデルのことをいう。情報処理とは入力された様々な情報を操作して操作結果を生み出すことである。つまり、認知心理学とは人間を情報処理システムとみなしてその人間の体内で何が起きているかを問題にした学問である。

 認知心理学を考える上で人間をコンピュータとして把握すると理解しやすいのではないだろうか。コンピュータに何らかの情報を与えるとコンピュータはその情報をコンピュータの内部で変換し、プログラムによる処理を行ってから結果を表示する。この情報を与えることをここでは「入力する」といい変換することを「符号化」、結果を表示することを「出力する」と考える。このコンピュータの働きは生命体の行動と類似するものを持っている。生命体に与える刺激はコンピュータでいう「入力する」ことをさし、結果として行動することは「出力する」ことをさす。そして生命体の生理学的な構造は「ハードウェア」であり、それを担う機能が「ソフトウェア」である。認知心理学とはこのような発想に立ち、人間特有の生理的な構造を調べ機能を推測していく学問である。こうして認知心理学では情報を扱う処理システムとしての用語がそのまま頻繁に使われるようになったのである。その例として「入力」、「出力」、「符号化」が挙げられる。

 1950年代の心理学で大きな影響を与えたのはミラーとブロードベントである。ミラーは人間の情報処理システムの容量の限界として知覚の範囲や直後記憶の範囲、絶対判断などに「7±2」という数字が繰り返して現れること、人間は再符号化によって記憶の限界を克服していくために大きな情報単位(チャンク)を形成することを記した「マジカルナンバー7±2」という論文を著した。またブロードベントは聴覚における選択的注意の問題という観点からフィルター、チャンネル、短期貯蔵庫、長期貯蔵庫などの概念を用いて人間の情報処理メカニズムの形を提唱したのである。また、チョムスキーの「生成文法理論」も認知心理学が誕生する時に大きな影響を与えた。その後、最先端の認知心理学者による学生用の教科書が高評価となり認知心理学が幅広く奥深く浸透していった。


メタ認知とは

 「メタ認知」とは人間にしか働き得ない高度の認知作業なのである。ここでまず「メタ認知」の定義を述べる。 「メタ認知」の「メタ」とは「より高次の」といった意味合いを持ち、「メタ認知」を直訳してしまえば「より高次の知情意(認知)」という意味になろう。 要するに、現在進行中の自己認知活動(知覚する、記憶する、理解するなど)を客体視し、それらの活動を評価した上で制御することである。 意図的・計画的な行動をスムーズに遂行するためには自己の認知活動を監視(モニター)し、それは感知程度のずれや行動目標に向かって様々な活動を統合していく時に必要とされる高度な認知機能にまで及ぶ。

 特定の目標を達成するためには、予測する、予測に基づいて計画を練る、計画を実行するなどの一連の動作、認知活動を行うことを「問題解決」といいこれはジグソーパズルや将棋、囲碁を打つことも問題解決の一種とされる。 問題解決に関わるメタ認知にはどのような基本的能力がひつようであるか、ブラウンが述べている。

 メタ認知には「自己の能力の限界を正確に予測する能力」、「自分にとって今、何が問題となっているかを明確に理解できる能力」、「問題の適切な解決法を予測し、より具体的な解決策の計画を立て有効か判断する能力」、「点検とモニタリング」、「活動結果と行動目標とを照らし合わせ、実行中の方略の続行や中止を判断する能力」が求められてくる。これらは認知活動の中でも特に高度なものである。複雑な問題が提起された時には、その問題を解決するための知的な活動はどのような時にどのような知識に基づいて行動すればよいか気付き、それを実行する能力に支えられているのである。

 メタ認知の発達に貢献したのは幼少期から青年期までに至る子どもである。メタ認知は行動主体としての自己に気付くことから始まり、人は何歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態の予測が可能になるのかブラウン、フラベルらが「自己の能力の評価」、「有効方略の予測と実行」、「行動の点検」といった三つの能力の発達の観点から子どもを対象に実験を行った。 これらの結果、学齢期に達しない児童では基本的にメタ認知能力が未発達であることが実証された。 しかし、小学校二年生より上の年齢になるにしたがって自己の能力の正確な評価や問題の解決に有効な方略を予測する、その予測にしたがって行動するなどが出来るようになってくることも実証された。



メタ認知のはたらきにくい場面

 メタ認知のはたらきに関して上記記したように必ずしも発達段階だけが影響しているとは限らない。 もちろん目標の立て方や問題に対する構え、問題の困難さなどが関与してメタ認知をはたらきにくくさせてしまっている場合もある。  問題に対する構えが形成されてしまう場合として「水がめ問題」が代表的である。この「水がめ問題」を実際に行ってみると問題に対する構えが形成されていることは明らかであろう。

要領の異なる3つの水がめ(A、B、C)があります。これら 3つの水がめを用いて所定量の水を計るにはどうすればよいでしょう。

A B C 所定量 1 14 163 25 99 2 9 42 6 21 3 21 127 3 100 4 20 59 4 31 5 18 43 10 5 6 28 59 3 25 7 15 39 3 18 〈A.S.Luchins,1942より、一部変更〉

最初から6や7の問題を与えられた時には多くの人が「28-3=25」や「15+3=18」と簡単に解けるであろう。  しかし1から5のような「B-A-2C」でしか解けない問題をいくつか行うと、同じ方法で6や7も解こうとしてしまうためなかなか解けなくなってしまう。またこの状態で「A-C」なら解けるが「B-A-2C」では解けない問題を出題されると大人でも解けない者が多かったという結果が導き出されている。  これらの事象は算数の問題に限らず、一度獲得した習慣となってしまった認知作業、構えは状況が変わってもその方法や考え方が通用する限りなかなか壊すことが困難となってくる。自己の行動を振り返り、そして状況とのずれを点検し把握することは知的かつ能動的に生きる基本とも言えるメタ認知能力なのである。

 次にメタ認知がはたらきにくいものとしてこれから達成しようとする目標が不明確なため起こるべき事態の予測がつきにくくそのために行動を組織化することが出来ずに結果として個々の状況に左右された思考や行動に陥りやすくなりこれがメタ認知を邪魔する。例えば、文章を書く時などが挙げられる。ここで注意したいのが文章を書くことを目的としているのではなく、人に何かを訴えるあるいは何かを説明することをさす。文章作成を一つの問題解決として考えてみれば理解が容易であろう。文章を書くことは数学や物理学のような定まった解放にしたがえば正解できるものと違う。解き方を自ら創造的に考え出さなければならない問題であるため書き手によって方法が異なってくる。焦点を絞らずに書き出す場合と、焦点を絞り書き手の意見をまとめた上で書き出す場合とでは取り組むべき問題の明確さや根本的解決方法が異なる。焦点を絞らずに書き出す場合、書き手側の連想的な思いつきの文章になりがちであろうと予測される反面、焦点を絞って書き出す場合は論の展開や内容の方針と組織的なプランが立てやすくなると連想されるであろう。このように焦点を絞り込んだ文章を書く時にこそメタ認知がはたらきやすくなり、文章に一貫性が生じてくるのである。メタ認知がない限り、日常生活において欲望と理性をコントロールさせることは困難だといえるのではないだろうか。

 一方、メタ認知は高度な認知作業である反面、運用に要する認知的負荷が大きく多量の精神的エネルギーが必要とされるだけに障害を受けやすい性質を持っている。このことから精神障害や老化によるメタ認知の破壊、損傷から人格に破綻をきたして社会生活を送れなくなることも頻繁に起こりうる。これらは自己能力を現実的に評価する際に用いられる要求水準に準拠している。精神障害をもっている人の中でも精神分裂病患者の場合、妄想や幻覚などの症状を慢性的に呈し、慢性に経過して人格の特有な変化をもたらす内因的精神病を持つことから自己の能力と目標のずれが適切には認知できないかもしくは認知しても修正できないことが理解できる。


メタ認知の根源

 メタ認知研究の根源は幼児が記憶方略を教示された直後には有効に実行するのに自発的には使用しない現象がメタ記憶の欠如として説明されたことである。メタ認知とはその人自身の認知過程と所産、あるいはそれらに関連したことすべてに関する知識をさしているのである。よって自己の認知活動を評価し制御するはたらきをもつため、人間を対象としたあらゆる学問や研究領域の問題と密接に関与しているのである。メタ認知を構成している能力をいかにして発展させるかは「教育」の問題となってくる。また自己活動の評価は価値観や倫理観にも影響されるため、人格形成やコミュニケーションの問題とも密接に関わってくる。先程述べた「教育」の問題は内発的動機づけ学習や外発的動機づけ学習にも大きく携わってくるのではないかと感じた。学びは一生涯を通じて行われるものである。そういった視点からメタ認知を通した「学びの技術」に関してついて簡単に述べていく。

 「学びの技術」を捉える上で重要となってくるのが学習と経験の考え方である。学習と経験の重要性を考える方法や技術は、現代社会に適応するといった概念に深く刻み込まれており大きな影響力を持っているのである。例えば、興味や関心を失わないこと、新しいものに理解を示すことなどは社会に適応する能力を示している。しかし、問題となってくるのは長い人生を送る上で様々な経験を重ねて多くの教育を受けているのにも関わらず誰一人として教育機関で「学習方法」を学んでいない事実ではないだろうか。学習方法には個人個人やりやすい方法があると感じているが、それでもやはりどのように学ぶのかを教わる必要性は十分に存在するのではなかろうか。学び方の得手不得手は別にして私たちは先天的に学ぶ能力を誰もが持っているという錯覚に陥りがちである。総合的な知的研究による最近の学説によると「学習方法を学ぶこと」が生まれつきの能力ではなく後天的な能力であることが明らかになっている。一方で私たちの認識力は知的能力の一つであり、そこには「メタ認知」能力が介在しているのではないかと感じる。これら「メタ認知」により知的戦略を発展させることは学習方法を学び、考え方を知る上で不可欠の要素となってくる。この「メタ認知」能力は私たちの文化的な視野を広げ、現実世界をどのように認識し、記憶して経験として生かしていくか理解するのに役立つだけでなく、実用的に役立つものとして利用する価値も持っている。


メタ認知に関するまとめ

私たちの知能がどのような機能をもち、学習のメカニズムとは果たしてどのようなものなのかを知ることが学習方法を学ぶための第一歩となってくるのであろう。そして注意力を養い、経験の意味を理解した上で合理的な方法で再構成するための簡単な原則を実践することが次に行うべき課題であるのではないだろうか。このように学習とは学校で得た知識を特定の分野として限定するのではなく、どんな形にも変容できる幅広い柔軟性が必要であろう。    柔軟性をもつためにも日々、変化する社会現象に適応することが求められてくるであろう。変化する世界に対応していくためには学ぶことの喜びと利点を理解し、経験することによって考え方の視点が変化することの意味合いを知ると同時に様々な経験による側面を捉え広い視野、あらゆる視点、角度からの学習アプローチが求められてくるのではないか。また、これら学ぶことの喜びの発見から学習方法を学ぶまでを客観的に捉え、私たちの陥る様々な認識のずれや錯覚を知る重要性を知ることが求められてくるであろう。  それらを知った上で各個人の知能の働き、思考スタイルを価値判断し、工夫して学習方法を見つけていくことが重要である。他者の知能や思考スタイルを参考にする時には自らの先入観を捨て公平な立場で考えを捉えることが求められてくるのではないか。つまり、様々な他者の問題解決アプローチを知り原因を理解することが学習を営む上で鍵となってくる。  そして学習とは個人だけの問題ではなくグループや集団、組織にも関わっていることを認識し、急激に変化する世界、社会環境の中で自分の心理状態を変化させたり新しいものや変動に適応させたりするために柔軟な対応が必要不可欠ではなかろうか。



参考文献

・著:A.L.ブラウン 訳:湯川 良三、石田 裕久  「メタ認知~認知についての知識~」 1984  サイエンス社

・波多野 誼  「認知心理学講座4 学習と発達」 1982  東京大学出版

・著:A.ベネットほか 訳:西本 武彦  「認知心理学への招待」 1984 サイエンス社

・市川 伸一、伊藤 裕司  「認知心理学を知る 第3版」 1996  プレーン出版

・著:アルベルト・オリヴェリオ 訳:川本 英明  「メタ認知的アプローチによる 学ぶ技術」  2005  創元社



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