新潟明訓高校落第事件
出典: Jinkawiki
1.事実の概要
本件は、私立高校の2学年末に原級留置と決定された原告生徒が、原級留置決定の効力停止仮処分を申請した事件である。判決は、学校が定めている原級留置基準についての実体的当否を判断することなく、半数の教師が出席したに過ぎない職員会議の審議の結果なされた原級留置の決定は無効であり、原告の新旧を判定するための早急に開催すべき義務が学校側にあるとした。当該高校の成績評価内規11条は、原級留置の基準として、①不認定科目が三科目以上のもの、②不認定科目が一ないし二科目で審議の結果、原級留置とされた者、③学年平均点が三十点未満の者、④欠席日数が出席すべき日数の五分の一を超えた者、の四者を規定し、このいずれかに該当する生徒は、進級判定会議において特別の審議に付され、進級の当否がとくに検討されることになっていた。原告生徒は、上記基準の④に該当する者(欠席日数51日で、五分の一の基準を三日超過)として、他の同級生三人とともに、特別の審議に付された結果、原告生徒だけが原級留置の決定を受けた。本件決定の行われた進級判定会議には、半数の教師が出席したにすぎなかった。この会議の出席者が少なかったのは、当時行われていた職員組合の無期限ストライキの一環として、組合員の教師の多くが同会議への出席を拒否したためであった。この会議は、行事日程に従って開催されたものであり、翌日には終業式が控えており、その後は入試事務が予定されていたので、学校としては予定通りの日に開催せざるをえなかったのである。
2.判決の要旨
①私立高校の進級判定請求権⇒私立高校の生徒は、各学年所定の授業を受けて単位を履修した場合、いわゆる在学契約の効果として、学校に対して進級の判定を求める権利を有する。しかし、学校に原級留置の基準があって、これに該当する者として原級留置の決定を受けた時は、右決定が適法手続きに違反してなされたか、または、教育的裁量の範囲を逸脱するものであることを証明した場合に限り、右決定の結果を無効のものとして、学校に対し進級の再判定を求める権利を有する。
②進級判定会議の構成要件⇒言及に留置かれることは、生徒にとって重大なことである。この重大性に鑑みると、原級留置の決定をなすにあたっては、大多数の教師が出席した職員会議で審議を行うのが教育条理と考えられる。事実によると、進級判定会議には半数の教師が出席したに過ぎないので、かかる会議における審議の結果なされた原級留置の決定は、適法手続きに違反してなされたものと認めるのが相当である。進級判定会議の構成を教育条理にもとるものにせしめた責任は、これに参加しなかった教師にあり、原告をして渦中に身を投げしめたことについて、これら教師が謙虚に反省することを期待してやまないが、かかる事情は原告の関知せざるところであるから、前記の判断を左右するものではない。
③進級判定会議の構成に瑕疵ある場合の原級留置の決定は無効⇒原告に対する前記原級留置の決定は無効であるから、学校法人は、原告の進級を判定するための職員会議を早急に開催する義務がある。なお、私立学校においては、学校の経営と生徒の教育とが分離されており、内部関係において学校法人が職員会議の召集権限を有さないことは明らかであるが、対外的な法律関係にあっては、それが教育作用に関して生じた場合においても、学校法人が権利義務の主体となる。
考察
本判決における原級留置の決定は、大多数の教師が出席するべき職員会議で行うのが教育条理であると判示している点において注目できる。判例上、教育条理の語が用いられたのもこの本判決が最初であり、ここにおける教育条理とは、原級留置決定に際しては職員会議の審議を得ることと、その職員会議は大多数の教師の出席を要件とすることが必然とするものと考えられている。しかし高校以下における職員会議の位置づけについては、大学等の教授会とは違い、実定法上の根拠がなく、対立する見解が見られるのも特徴である。ちなみに本判決では、進級判定を行う職員会議を原級留置の決定過程における不可欠の審議機関として位置付けている。
参考引用:『教育判例読本』教育開発研究所 http://osaka.cool.ne.jp/kohoken/lib/khk061a2.htm