農業・食料問題
出典: Jinkawiki
目次 |
日本の農業の特質と変貌
1、日本農業の特質
戦後の農地改革によって大部分は自作農となったが、次のような特質は変わらず残った。
- 零細経営
農家の経営する面積は諸外国に比べて極端に小さい。農家1戸あたり経営面積は日本の1haに対してアメリカは157ha、イギリスは55ha、フランスは22ha、である。したがって機械化もしにくく、共同経営や企業経営は少ない。
- 集約農業
狭い耕地に多くの肥料と人手をかける多肥・多就労の集約農業で、欧米諸国の大農式粗放農業(人手と肥料などをあまり使わないやり方)と対照的である。
- 低生産性
土地生産性(単位面積あたりの生産高)は高いが労働生産性は低いので、国際価格に比べて割高となる。
2、高度成長の影響
他産業が著しく経済成長し、産業間所得格差が拡大したため、日本農業の姿は大きく変わった。
- 離農化
他産業で働いた方が所得が高くなるため、農業人口が急速に流出した。
- 兼業化
専業農家は激減、ほとんどが兼業農家となった。
- 女性化・高齢化
男子の労働力が減り、じいちゃん・ばあちゃん・かあちゃんに依存する「三ちゃん農業」となった。
3、農村の過疎化
人口の流出する農山漁村では、過疎化が進んだ。学校の統廃合や無医村が増え、鉄道・バスなどは赤字で廃止される。生活はますます不便になって、過疎化に拍車をかけることになった。
農政の動向
1、農業基本法(1961年)
農業生産の選択的拡大(需要増加の見込まれる野菜・果樹・畜産などを拡大すること)や構造改善などによって、農業と他産業との生産性・所得格差を是正し、自立的経営農家の育成をめざしたが、兼業化の働きはとまらなかった。
2、コメの政府管理と減反政策
- 食料管理制度
政府は、生産者米価を保証して全量買い入れを実施してきたため、安定したコメ作りに依存する農家が多く、その供給は増えた。しかし、コメ需要は減退してきたため在庫米は増加し、食糧管理特別会計の赤字が累積して財政負担も増加した。
- 減反政策
1970年から減反政策(コメの作付制限)が実施され、国際価格の倍数にもなった米価の抑制もはかられた。
3、コメの自由化
食用のコメは、自給することを原則としてきたが、1993年末にウルグアイ=ラウンドでアメリカなどが要求するコメ市場の部分的開放を受け入れ、ミニマム=アクセス(最低輸入量)を約束した。さらに1999年からはコメ輸入の関税化が実施され、コメは関税を払えばだれでも輸入できるという意味で、自由化が実現した。また自由化によりミニマム=アクセスの年増加率を抑制することができ、2000年度では当初、国内消費量の8%、75万トンの最低輸入量を7.2%、68万トンに抑えられた。
4、食料・農業・農村基本法(新農業基本法、1999年)
農業人口の高齢化、兼業化の進行、農業物の輸入自由化の進行など、日本農業の状況の変化を受けとめ、新しい農業基本法として成立した。この法律は、食料安全保障、環境保全など農業の多面的機能をじゅうしし、農業経営の法人化推進、中山間地域への公的支援などを含む、総合的な農業政策を示した。
食料自給率の低下
1、農産物輸入の増大
コメ以外の農産物は、1960年代以降の貿易自由化の流れの中で、早くから段階的に輸入が自由化されてきた。そのため、外国農産物の輸入は増え、日本は世界有数の食料輸入国となっている。
2、食料自給率の低下
その結果、わが国の食料自給率は年々低下し、2006年度の食料自給率は39%と先進国の中では最低の水準となっている。これは、安い外国農産物が消費者に利益となっているが、一方では日本農業に対する農民の不安を高めるとともに、将来においては世界的な食料不足も予測されることから、一般国民の間にも心配する声がある。
参考文献
- 現代の食料・農業問題:誤解から打開へ 鈴木宣弘
- いつまでも食えると思うな:農業と食料・現場からの警告 小谷正守、保田芳昭 編著