魔笛

出典: Jinkawiki

魔笛

モーツァルトの最後のオペラ。1791年に作曲され同年ウィーンで作曲者の指揮により初演された。二幕からなり、台本は、俳優・歌手・台本作家として知られたドイツ人、E・シカネーダー(1751~1812)。エジプトの王子タミーノと夜の女王の娘パミーナ、鳥さしのパパゲーノとパパゲーナが結ばれるまでの童話的なオペラで、ドイツ語で書かれたジングシュピールとして、その後のドイツのオペラの発展の出発点ともなった。スウェーデンの映画監督、ベルイマンにより映画化(1975)もされている。またオペラにおけるイタリア語最優位がおかれていた時代にとって、このドイツ語オペラ=ドイツ・オペラは、たいへんな意味ある存在となった。ドイツ・オペラの金字塔ともいわれる。

あらすじ

第一幕

旅行中の王子タミーノが大蛇で失神するのを、夜の女王の3人の侍女に救われる。侍女たちは女王に報告しに行く。入れ違いに鳥のような服装をしたパパゲーノが現れて、自分が王子を助けた、とウソをつく。再び現れた侍女たちはパパゲーノの口の錠をかける。

夜の女王が現れ、「自分の娘はザラストロという悪者に誘拐されている。もしも助けてくれたら褒美に娘をやろう」と歌う。 タミーノは夜の女王の娘、パミーナを救う決心をする。パパゲーノは口の錠をはずしてもらい、タミーノの供をする。

2人がザラストロの館に行くと、実は夜の女王は悪者で、その清純な娘のパミーナが感化されないようにと高僧のザラストロに保護されていることを知る。

第二幕

ザラストロはタミーノとパパゲーノを試練にかけることにする。タミーノは合意するが、パパゲーノはいやがる。しかし、試練を終われば、パパゲーノにもパパゲーナという若い娘が待っている、と聞いて、試練を受けることにする。

夜の女王は黒人のモノスタートスがパミーナを襲おうとするのを追い払い、彼女にザラストロを殺せ、というがパミーナはできないでいる。

パミーナは、試練だとは知らずにタミーノが自分に話しかけないのは嫌われたからだと思い、自殺を考える。しかし、3人の童子に救われ、タミーノと一緒に火と水の試練を受けて克服し、祝福される。一方、パパゲーノは試練を守ることはできなかったが、なんとか救われて、パパゲーナと結ばれる。

夜の女王と3人の侍女、モノスタートスは奈落に落ち、ザラストロを称えるなかで幕となる。


登場人物

ザラストロ…高僧

夜の女王

パミーナ…夜の女王の娘

三人の侍女…夜の女王に仕える侍女

タミーノ…王子

パパゲーノ…鳥さし

パパゲーナ…パパゲーノの相手

弁者

モノスタトス…ムーア人

三人の童子

武装した男たち

僧侶、奴隷たち


描かれた奴隷

魔笛の第一幕~第十八場では、パミーナがザラストロの神苑から逃れた理由について、次のように言う場面がある。 『でも、それは私のせいではありません。悪い黒人が愛を要求し、私に言い寄ったから逃げたのです』 このパミーナの言葉には、白人と黒人との間に越えがたい境界があること、すなわち、白人の黒人に対する認識のありようが明確に見てとれる。 フランスが17世紀末にカリブ海の植民地に適用した「黒人法」では、奴隷である夫、妻、子を別々に引き離して売ってはならないと定めていたが、アメリカ(ルイジアナ州を除く)では、夫婦と親子を切り離すことを禁じる法律はなかった。魔笛では、パミーナが母=夜の女王から、引き離されてザラストロの許にいるが、これは、黒人奴隷の取引に関わる象徴的な場面設定であると捉える見方もある。

また、この作品には黒人モノスタトスが登場する。モノスタトスは最後まで浮かばれない役回りである。 鳥刺しパパゲーノがモノスタトスと出くわした瞬間、両者は相手の姿に(モノスタトスは羽毛をつけたパパゲーノに、パパゲーノは黒人モノスタトスに)驚いて互いに逃げ出す。その後に正規の台本では、パパゲーノが「黒い鳥もいるんだから黒い人がいてもおかしくはないな」という独り言を言うことになっているが、露骨な差別表現であり、このセリフが省略された録音も多い。


<参考文献>

「魔笛、文明史の劇場」 塩山千仭 1999、春秋社

「モーツァルトオペラのすべて」 堀内修 2005、平凡社

「ロココの裏の欲望~モーツァルトのオペラワールド~」 永竹由幸 2006、株式会社ショパン


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