生活保護費預貯金訴訟
出典: Jinkawiki
概要としては、加藤鉄夫さんは、両肘と両肩のリューマチと胃潰瘍のため働けなくなり、貯金も使い果たしたので1979年6月から生活保護を受け始めた。加藤さんの妻が身の回りの世話をしていたが、その妻も高齢で病弱のため、介護は相当の負担であった。そのため加藤さんは、将来入院した際に、付き添う看護婦を依頼するための費用をその他の非常の出費に備える必要を感じ、生活費をできるだけ切り詰めて、生活保護費と障害年金の一部を貯蓄していた(預貯金は1984年12月末で約81万)。加藤さん夫婦は、生活費を浮かすために、食卓も自分で作り、ポリバケツを簡易便器とし、肉食を控え、散発や入浴も極力控えていた。
ところが「生活保護適正化政策」(本来生活保護が必要ないのに、生活保護を受けている者がいないように、生活保護の審査を厳格に行うというもの)に基づいて被保護者の資産調査が行われ、福祉事務所が加藤さんの口座を調べた結果、預貯金の存在がしられることになった。福祉事務所はこの預貯金を加藤さんの収入と認定し、生活保護の廃止を決定した。その後、加藤さんの抗議を受けた福祉事務所は81万円余りのうち約27万円を収入と認定し、その分をそれ以降の生活保護費から差し引くことにした。加藤さんは福祉事務所の処分を不服として、訴えを起こした。
1993年4月、秋田地方裁判所における判決要旨では、「国によって支給された生活保護費は、国が憲法や生活保護法に基づき、健康で文化的な最低限度の生活を維持するために被保護者に保有を許したものであって、こうしたものを元にした預貯金は、非保護者が最低限度の生活を下回る生活をすることにより蓄えたものということになるから、本来、被保護者の現在の生活を、生活保護法により保障される最低限度の生活水準にまで回復させるためにこそ使用されるべきものである。したがって、このような預貯金を収入と認定して、その分の生活保護費を減額すべきでない。」とし、生活保護費の減額処分は無効とした。
参考文献
・「政治・経済資料」東京法令出版
・「政治・経済用語集」山川出版社