監視社会
出典: Jinkawiki
監視社会
2003年長崎市の幼児誘拐事件では、12歳の中学生が被害者と連れだって歩いていた商店街の監視カメラの映像が犯罪捜査に役立った。 イギリスでは、世界最先端の監視社会が実現しており、ロンドンだけで50万台の監視カメラが稼働している。我が国でも警察、自治体、企業、商店街、個人などが監視カメラ(防犯カメラと称する)を設置していて、世論もその設置に積極的になりつつあるが、設置場所や記録映像の管理方法について法的規制のない現状では、防犯効果があるとしても、プライバシー侵害のリスクも高い。すでに、Nシステム(高速道路と主要国道で自動車のナンバーを撮影し記録する移動車両追跡システム)も稼働しているし、ブロードバンド化によるデータ共有や交換が可能な技術に達している。市民社会が繁華街では24時間監視カメラ、自動車で移動するとNシステムで動向をつかまれる社会になりつつある。これを政府の電子政府構想に取り込んだ場合には、政府による国民のプライバシー侵害の危険性のある市民管理が徹底させるという危惧も指摘されている。
監視社会については、すでに幾多の論者により活発な議論が行われてきており、監視社会は情報化の不可避的な帰結であること、圧制のための監視ばかりではなく、保護と安全のためのそれもあること、さらに、監視は規制や統制に代わる自主的な管理ツールになることなどが明らかにされつつある。監視社会について不安を覚える大きな理由はプライバシー問題だ。しかし、姿かたちなどの公開された情報は原則的にはプライバシーではない。また公共の場におけるプライバシー権は縮小する。最終的には競合する公共の利益との比較考量によって、判断されなければならない。
それに監視は、いろいろと重要なメリットがある。安全のための監視は、ある程度自由が制限されても行うべきものである。なぜならば、生存権は他のいかなる権利にも優先する基本的な人権だからである。9・11事件以来、世論も大きく変化したが、米国内の安全保障のための監視体制も厳しくなりつつある。
資源の有限さや、環境問題などが深刻な問題となっている現代、競争原理に代わる新たな社会の原理が求められている。いまや「競争の原理」から「協調の原理」への転換が必要な時代である。そうした中で、必ずしも私有化や厳しい規制の導入などに頼らなくても、国民が自発的に相互監視と違反の制裁をきちんと行うことによって、協調の中で共助、共存の社会を実現することが十分できるのである。
- 参考文献
サイバー監視社会 ユビキタス時代のプライバシー論 青柳武彦
デジタル・ヘル サイバー化監視社会の闇 古川利明