「滑りやすい坂」論
出典: Jinkawiki
「滑りやすい坂」論
ある行為が法的または道徳的に許されないことを示すために使われる論法の一つであり、一般に次の形式を持つ。「もしあなたがはじめの一歩Aをふみだすならば、あなたか、重要な点においてあなたと似ている別の行為者によって類似の行為が次々と連鎖的に行なわれ、その結果、行為Bが必ずなされるか、あるいは非常に高い可能性でなされるだろう。Bは道徳的に許容できない。したがって、あなたは第一歩Aをふみだしてはならない。」
この論法の代表的な例は、安楽死に関するものである。
「滑りやすい坂」論(slippery slope argument)とは、安楽死に慎重な人々が使う考え方で、安楽死反対の根拠の有力なひとつとされている。法律で積極的安楽死や自殺幇助を認めてしまうと、坂道をどんどん滑り落ちるように歯止めが効かなくなるという論である。 この最悪の例がナチス・ドイツの安楽死政策である。心身障害者やハンディを負って生まれた新生児、家族や社会の負担が大きい慢性病や難病を抱える患者や高齢者など、いわゆる弱者が安易に安楽死へ追いやられる危険性が指摘されている。また、命を粗末にする風潮を生んだり、悪徳医師が悪用しかねないという心配もある。 ガイドライン違反や歯止めが利かなくなる心配が危惧されるも、オランダでは昔からの仮定医師制度が浸透しているおかげで、患者と医師の信頼関係が強固である。たとえ本人が意思表示できなくなっても意思が本人の希望を十分に理解しているはずである。 一方、こうした実態をイギリスの『ザ・タイムズ』紙、アメリカ自殺予防財団の医療責任者を務めたハーバート・ヘンディン博士は、「オランダは滑りやすい坂道を急速に駆け下りている」と警告している。
参考文献
『許されるのか?安楽死』 著・小笠原信之 緑風出版 2003年出版