アタッチメント

出典: Jinkawiki

アタッチメント(attachment)とは、乳幼児期に形成される『愛着=情緒的な深い結びつき』のことである。特定の親密な養育者と乳幼児の間で、アタッチメントは形成され乳幼児の安心感や信頼感の源泉となる。

乳幼児がアタッチメントを取り結ぶ特定の相手とは、多くの場合、乳幼児の身近にいて懸命に食事や排泄の世話をして、優しい遊び相手にもなってくれる母親である。特に、乳児の場合、自分の発信行動であるバブリング(喃語)や微笑み、泣き叫びに対してタイミングよく適切に反応してくれる養育者に対して、親密なアタッチメントを形成する。

アタッチメントは、乳児や幼児の心理的安定感の基盤となり、母親のように自分に特別な保護・愛情を与えてくれるアタッチメントの対象は『子どもの安全基地』としての役割を果たす。2~5歳くらいの幼児期には、まだ完全に母親との心理的分離が出来ておらず、母親から長時間離れて行動していると分離不安が芽生えてくる。

その為、乳児期から幼児期までは、母親を安全基地として外部世界の探索行動を開始することになる。赤ちゃんや幼児は、母親と離れている時間が長くなって不安になったり、見知らぬ他者が多くいる環境で不安になったりした時には、安全基地である母親のところへと戻っていき安心感や勇気の心理的エネルギーを補充して貰う。

乳児期から老年期までの発達課題を多面的(心理学・社会文化・生物学)に定義した発達心理学者ハヴィガースト(R.J.Havighurst)は、乳幼児期の発達課題をうまく達成していく為には、母子間(重要な養育者と子どもの間)のアタッチメント形成が欠かせないと考えた。

ハヴィガーストが、母子間のアタッチメントを基盤にして達成していく乳児期の発達課題をしたのは『離乳と固形食の開始・歩行の開始・トイレトレーニング・言語獲得』などであり、これらは母親(父親でも良い。子どもがアタッチメントを形成した大人)の愛情ある接触と支援がないとなかなか上手く習得することが出来ないと考えられた。

アタッチメントの対象と強度、外部環境へのストレス耐性(ストレス・トレランスを測定する心理学的な観察法としては、エインズワース(M.D.S.Ainsworth)の考案した『ストレンジ・シチュエーション・メソッド(strange situation method)』などがある。

これは、母親以外の他の大人と一緒に過ごす時間の長さによる乳幼児の行動の変化や不安の程度を測定したり、母親が目の前からいなくなってどのくらいの時間が経過すれば不安反応を示すのかを調査するものであり、母親とのアタッチメントの程度が強いほど不安反応を示す時間が短くなる。

アタッチメントの強すぎる子どもは、俗に『人見知りの激しい子』といわれ、母子分離不安が強くなりやすい傾向がある。人見知りが余りに激しい場合には、母親以外との大人と接触する機会を増やしたり、同年代の子どもと遊ぶ時間を増やしてあげると母子分離がうまく進みやすくなるし、母親の育児負担やストレスが緩和することにもなる。


愛着理論

愛着理論(あいちゃくりろん、Attachment theory )は、心理学、進化学、生態学における概念であり、人と人との親密さを表現しようとする愛着行動についての理論である。子どもは社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それが無ければ、子どもは社会的、心理学的な問題を抱えるようになる。愛着理論は、心理学者であり精神分析学者でもあるジョン・ボウルビィによって確立された。

愛着理論では、幼児の愛着行動は、ストレスのある状況で対象への親密さを求めるために行っていると考えられている。幼児は、生後6ヶ月頃より2歳頃までの期間、継続して幼児の養育者であり幼児と社会的相互作用を行い幼児に責任を持つような大人に対して愛着を示す。この時期の後半では、子どもは、愛着の対象者(よく知っている大人)を安全基地として使うようになり、そこから探索行動を行い、またそこへ戻る。親の反応は、愛着行動の様式の発展を促す。そしてそれは、後年における内的作業モデルの形成を促し、個人の感情や、考えや、期待を作り上げる。離別への不安や、愛着の対象者が去った後の悲しみは、愛着行動を行う幼児にとって、正常で適応的な反応であると考えられている。こうした行動は、子どもが生き延びる確率を高めるために生じたと考えられる。

発達心理学者のメアリー・エインスワースによる1960年代から1970年代の研究は、愛着理論の基本的な概念を確立した。「安全基地」という概念を提案し、また幼児における愛着行動のパターンを分類し、「安全の愛着」、「回避の愛着」、「不安の愛着」の3つに分けた。4つ目の愛着パターンは、「混乱の愛着」であるが、後で発見された。1980年代には、愛着理論は、大人にも拡大された。愛着行動の一要素として含まれる可能性があるのは、全ての年齢における同僚との関係、性的吸引力、幼児や病人や老人がケアを必要としていることなどである。

幼い頃の子どもの愛着行動の本質を包括的に説明する理論を構築するために、ボウルビィは学問分野の範囲を広げて、進化生物学、対象関係論(精神分析理論の一学派)、制御システム理論、動物行動学(エソロジー)、認知心理学などを研究対象に含めた。1958年以後の予備的研究の論文以後、ボウルビィは「愛着と喪失」(1962-82)の三部作の中で、理論の全容を発表した。当初、大学の心理学者たちはボウルビィを批判した。そして、精神分析を行うグループは、彼が精神分析の理論を放棄していたので、彼を追放した。しかしながら、その頃、愛着理論は、生後早期の社会的発達を理解するための主要な研究手段となり、子どもが親密な関係を構築する過程に対する実証的研究の劇的な発展を招いたのである。

愛着理論に対して後になされた批判は、子どもの気質、社会的関係の複雑さ、分類のための各パターンの境界などに関する批判であった。また心理学者のラターは母性剥奪によると思われる症状(発達遅滞など)が、じつは母親から引き離されたことによるものではなく、その当時の劣悪な施設の環境や、多数の不特定の保育者によって保育されることによっていることを明らかにした。そして正常発達に必須なことは、母親が育てることではなく、愛着対象となる保育者が固定されていること(少なくとも数人以下)であるということであった。こうした批判の妥当性はボウルビィ自身も認めており、改定された著書には取り入れられている。

愛着理論は実証的研究の結果により、これまでも修正を受けてきたが、その主要概念は広く受け入れられている。愛着理論は、これまでの治療法や新しい治療法の基盤となっている。そして愛着理論の概念は、社会政策や子どもケアの政策を立案する際に使用されている。

ただし愛着理論をいわゆる三歳児神話の理論的根拠とするのは曲解である。乳幼児期は基本的信頼の形成にとって重要であり、特定の者との間に「愛着」関係が発達することは大切である。しかし基本的信頼は母親のみとしか形成できないものではなく、母親以外の者であることもあり得ることであり、母親を含む複数人であっても問題視すべきものではない。


ブランド・アタッチメント

アタッチメント概念に関する理論は、 心理学者である J. Bowlby によって 提唱された理論として知られている。 Bowlby によると、 アタッチメントと は、 人と特定対象間における、 感情を伴った、 対象特定的な心の絆 (bond) と定義される (Bowlby 1968)。 アタッチメントは、 「略奪者からの保護」 を めぐってなされる相互作用を通して形成されるとされており (Bowlby 1968, 1973, 1976)、 乳児が保護を求めてシグナルを発するとき、 それにいつもす みやかに応えて、 相互作用を行うものが特定の誰かであると乳児が弁別でき たとき、 乳児はその対象に対してアタッチメントを形成すると考えられてい る。 すなわち、 自分が誰かから一貫して保護してもらえるという 「安全の基 地」 としての信頼感こそがアタッチメントの本質的要件であると考えられて いる2) (Goldberg 1999)。

心理学におけるアタッチメント理論を適用した研究には、 Park らの研究 がある。 Park らは、 ブランド・アタッチメントこそが、 ブランド・リレー ションシップの強力な促進要因であるとして、 心理学におけるアタッチメン ト理論の適用の有益性を指摘している (Thomson et al. 2005, Park et al. 2009a, 2009b)。

Park らは、 ブランド・アタッチメントを 「ブランドと自己を結びつける 認知的、 感情的な絆の強度」 として定義している (Park et al. 2006, p. 4)。 彼らは、 ブランド・アタッチメントをブランド・コミットメント (ここでの ブランド・コミットメントとは、 将来に渡るブランドとの長期的な関係の維 持への行動的意図として捉えられる) の先行要因として捉え (Park et al. 2009a)、 感情的反応としてのブランド・アタッチメントと、 行動的意図とし てのブランド・コミットメントを分けて捉えている。 また、 彼らの研究では、 ブランド・アタッチメントをブランドと自己との結びつき (Brand-Self con- nection) と顕著性 (Prominence) の2次元によって捉え、 それらを測定す る尺度を開発している (Park et al. 2009b, 2010)。 前者は、 自己とブランド の同一化の程度を測定する項目、 後者は、 ブランドに関連する思考や感情が 生じる頻度を測定する項目によって構成されている。

これまでのブランド・リレーションシップ研究では、 このブランド・アタッ チメントに類似した概念がいくつか提案されている。 たとえば、 Carroll and Ahuvia (2006, p. 81)は、「特定のブランドに満足した消費者が保持する情熱 的で情動的な愛着の程度」 として、 ブランド・ラブという概念を提案してい る。 同様に、 Batra et al. (2012) も、 7つの構成要素 (情熱に導かれる行動、 自己とブランドの統合、 ポジティブで情動的なつながり、 長期的関係、 別離 への不安など) から成るブランド・ラブ概念を提案している。 Fournier (2009) は、BRQ の1つの構成要素として、 消費者のブランドに対する感情 的反応及びコミットメントとしての行動的意図を含んだ、 「愛・コミットメ ント」 を提案している。

Park らや Carroll and Ahuvia (2006)が、消費者のブランドに対する感情 的反応としてブランド・アタッチメントもしくはブランド・ラブ概念を捉え ているのに対して、 Batra et al. (2012)やFournier (2009) では、 ブランド への愛着としてのラブを感情的反応及び行動的意図として捉えている。 本研 究では、 Batra et al. (2012)やFournier (2009) に倣い、 ブランド・アタッ チメントを 「消費者とブランドの絆の強度」 として広義に定義し、 絆の強度 には、 感情的反応、 行動的意図が含まれるものとして捉える。


参考URL

http://digitalword.seesaa.net/article/16796718.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9D%80%E7%90%86%E8%AB%96


参考・引用文献

自己とブランドの結びつきがブランド・アタッチメントに与える影響 菅野佐織 商学論究, 60(4): 233-259


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