アデノシン三リン酸(ATP)

出典: Jinkawiki

アデノシン三リン酸とは、その分解により発生する化学エネルギー(アデノシン三リン酸が、アデノシン二リン酸とリン酸に分解される際に生じる化学エネルギー)によって、筋を動かす物質のことである。人間が身体活動を行うにはおもに筋を動かす必要があるため、我々が生きていく上でとかく重要な物質である。ATP(Adenosine Trihosphate)という略記が一般的に用いられる。

ATPは筋の中にあらかじめ貯蔵されているが、その量はごくわずかなので、それだけでは1秒程度しか筋を動かすことができない。したがって、筋を動かし続けるためにはATPを分解しながら、同時に産生する必要がある。本項では、主にそのATPの産生について言及する。

産生の原料

ATPを産生するためには、酸素と糖質や脂肪などのエネルギー源が必要になる。これらを体内に取り込む役割を担っているのが呼吸と食事、および血液の循環である。呼吸によって酸素を、食事によってエネルギー源を体内に取り込み、血液の循環によってそれらを体のすみずみに供給する。

体に摂取したエネルギー源のうち、すぐにATPの産生に使われなかったものは、中性脂肪となり脂肪細胞に蓄えられてしまう。成人男性が一日に消費するエネルギーは2100kcalから2600kcalである。したがって、計算上は2600kcal以上の食事を摂取しなければ太らないということになるが、それ以上の食事を摂取した場合は、日常生活の活動に加えて、運動などで摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取ることが望ましい。

産生のシステム

ATPを産生するためのシステムは大きく三つに分けられる。

  • ATP‐PCr系

筋の中にあらかじめ蓄えられているクレアチンリン酸を分解することでATPを産生するシステム。最もはやくATPを産生することが可能なシステムである。ただし、筋の中に貯蔵されているPCrの量はごく少量であるため、長時間にわたるATP産生はできない。

  • 解糖系

酸素を利用せずに糖質を分解してATPを産生するシステム。ATP‐PCr系よりは時間がかかるが、比較的はやくATPを産生することができる。ただし、糖質を分解する過程において、筋の収縮を妨げる乳酸が作られるため、体内に貯蔵されている糖質の量だけで長い時間運動を続けることはできない。

以上の二つは、酸素を必要としないでATPを産生することから、「無酸素的エネルギー供給過程」とよばれている。100m走や重量挙げといった短期間で強いパワーを発揮するような運動で優位にはたらくシステムである。一方で、長時間運動を継続することはできない。

  • 酸化系

酸素を利用して糖質と脂肪を分解してATPを産生するシステム。ATP‐PCr系や解糖系と比較するとATPを産生すのに多くの時間を有するが、長く運動を続けることができるシステムである。

酸化系は、酸素を使ってATPを産生することから、「有酸素的エネルギー供給過程」とよばれている。マラソンなどの長時間続けるような運動で優位にはたらくシステムである。


このように、各システムがそれぞれの運動に応じて利用されている。どういった局面においてもATPが効果的に供給されるように、複数のATP産生システムが存在する。


〈参考文献〉

・スポーツインキュベーションシステム 2002 『スポーツの科学』 ナツメ社

・丸山工作 2001 『筋肉はなぜ動く』 岩波書店


(HN:LUPIN)


  人間科学大事典

    ---50音の分類リンク---
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                          
                  
          

  構成