イギリスの教育制度2
出典: Jinkawiki
イギリスの教育制度改革
現行のイギリス教育政策の基本的枠組みの多くは、サッチャー保守党政権(1979~1990)による教育改革法(1988年)に基づいている。サッチャー首相は教育の分野に市場原理を導入して、新自由主義的な教育政策を強力に推し進めていった。その基本的な考え方は、1988年の教育改革法に具体化され、ナショナル・カリキュラムとナショナルテストの実施、学校の自主的運営の強化、親の学校選択の拡大など、アカウンタビリティを強化する一方で、自由と選択を促す政策が導入されていった。英語圏では先駆けとなったナショナル・カリキュラムは1989年より初等学校から順次実施され、その後1997年にはデアリング報告書の勧告により改定され、教育内容が精選された。 イギリスの教育改革において、「スキルの育成」は重要な焦点のひとつであった。スキルをめぐる教育政策の系譜を振り返ってみると、まずその契機はサッチャー政権に先立つ労働党のキャラハン首相によるラスキンカレッジの演説(1976年)にあった。その演説では「仕事のための道具」の育成が提言され、それ以降、キャリア開発を志向したカリキュラム政策が注目されていくようになっていく。1983年の「青年職業訓練計画」では、就業能力に必要な力として「コア・スキル」が使用されるようになった。その後、コア・スキルは「きー・スキル」と名称を変えるが、職業教育や青年を対象とするだけではなく、義務教育段階のすべての子どもにそのようなスキルを育成することが重要であるという認識が広がっていった。
学校制度
就学前教育は、保育学校や初等学校付設の保育学級で実施される。義務教育年限は5歳から16歳の11年である。また、16歳以降の教育・訓練を奨励するため、2008年に教育・技能法が成立し、フルタイムかパートタイムの教育または訓練が18歳まで義務化された。 初等教育は、6年制の初等学校で通常行われる。初等学校は、5~7歳児を対象とするキーステージ1(幼児部)、及び7~11歳を対象とするキーステージ2(下級部)に分けられる。これらの幼児部と下級部の校舎は併設されているところが一般的であるが、別々に立地しているところもある。 中等教育は11歳から通常開始される。およそ90%の生徒が総合制中等学校に進むが、地域によっては選抜制のグラマースクールやモダンスクールが残るところもある。高校の修了資格として、16歳時に受ける外部試験のGCSE試験がある。 義務教育修了後の中等学校の課程には、大学進学に必要なGCE(General Certificate of Education)A(advanced)レベルの取得を目的としたプログラムがあり、中等学校に設置されているシックスフォームや独立した学校として設置されているシックスフォームカレッジにおいて実施される。 初等・中等教育にはこの他、公費援助を受けない独立学校として、パブリックスクールやプレパラトリースクールなどもある。また、近年では、新しい政権の推進政策により、公費によって維持されている自律性の高いアカデミーやフリースクールと呼ばれる学校が増加している。中等学校に至っては、アカデミーの学校数が地方当局の設置・維持している公立学校数を上回るようになっている。 高等教育には、大学及び高等教育カレッジがある。1993年以前にはポリテクニックがあったが、すべてが大学となった。また、義務教育学校の多様な教育を指す継続教育には、継続教育カレッジと呼ばれる職業教育を中心とする多様な課程がある。
参考文献
松尾知明(2015)『21世紀型スキルとは何かーコンピテンシーに基づく教育改革の国際比較』明石書店