イラク戦争8

出典: Jinkawiki

原因

「テロ事件ではっきりしたのは我々の脅威は今や核大国ではなく、テロ組織や大量破壊兵器の開発をもくろむ国だということだ」  これは、アメリカのブッシュ大統領の言葉です。 つまり、アメリカがイラクを攻撃したのは、イラクがテロ組織を支援し、大量破壊兵器を開発していて、そのことにより、アメリカに脅威をあたえているからということになります。 2001年にアメリカで起こった9.11事件では、たくさんの罪のない人々がなくなりました。このような行為を許せないのは、当然です。 しかし、アメリカが言うことを理由にイラクを攻撃するならば、アメリカは ○ イラクがテロ組織を支援していること ○ イラクが大量破壊兵器を開発していること を証明しなくてはなりませんでした。しかし、イラクが世界貿易センターの事件に関係していたという証拠はありませんし、国連の査察団は、イラクが大量破壊兵器を持っていることを確認できませんでした。  それどころか、つごうのいいように事実をねじまげて報道していたことが、示されるようになってきました。 ブッシュ政権は、「ネオコン」とよばれる人々によって動かされていたと言われています。ネオコンは、アメリカ型の民主主義を世界に広めることを国の目標にすべきで、そのためにはアメリカの強い軍事力を使うべきだと考える人たちです。つまり、違った文化をもつ人々と互いに認め合いながら共に生きていこうとは考えない人たちです。アメリカの外国に対する政策が強硬になっていったのは、ネオコンが政権の中で力をもったからです。それから、ネオコンの人たちには、イスラエルとつながりのある人たちが多いようです。  当時のアメリカの政治には、これらの人たちが大きくかかわっていました。 イスラエルという国がつくられたときに、もともとそこにくらしていた多くのパレスチナ人は、土地や家を奪われ、難民となりました。イスラエル軍により命を失う人も、後を絶ちません。イスラエルのまわりには、そんなイスラエルに敵意をもつ国がいくつもあります。そのひとつであるフセイン政権を倒し、イスラエルに敵対しない政権をつくることは、イスラエルにとってつごうのいいことです。そのために、ネオコンの人たちがイラクにアメリカが攻め込むように仕向けていったという説があります。 アメリカは、世界でいちばん石油を使っている国で、イラクは世界で最も多く石油を持っている国です。(開戦当時は、イラクの石油埋蔵量は世界第2位だと言われていましたが、その後、1位のサウジアラビアを抜き、最も石油を持っている国だと言われるようになりました。)アメリカにとって、イラクでの石油の利権(石油を手に入れたり値段を決めたりできる力)を確保できることは非常に有利になることです。そこで、イラク戦争のめあては、石油だという説もあります。


イラク戦争における日本

イラク戦争は、同時に日本の軍事外交に取ってもターニングポイントであったと思います。  今回の10周年に当たって、開戦当時に小泉政権での官房長官職にあった福田康夫元首相は、「イラクに大量破壊兵器があるとの情報は来ていなかった」という発言をしています。また昨年2012年の12月21日に「選挙で負けて退任直前」の民主党の玄葉光一郎外相(当時)は、部下である外務官僚に「対イラク武力行使に関する我が国の対応」という「検証結果」を報告させていますが、その中には、 「当時は、イラクが大量破壊兵器を隠匿している可能性があるとの認識が国際社会で広く共有されていたが、調査の結果、当時、イラクに大量破壊兵器が存在しないことを証明する情報を外務省が得ていたとは確認できなかった。」  という表現があります。恐らく外務省の官僚組織としては「歴史の審判」を意識して、とりあえず組織の名誉のためにこうしたコメントを残しておきたかったのでしょう。安倍政権になると言えなくなるので、「駆け込み」での「報告」となったのだと思います。また、福田康夫元首相の場合も議員引退をして自由の身になったので、同じように自分の歴史的評価を気にしての発言と見受けられます。  ですが、外務省や福田氏のような「当時は身を張って開戦支持阻止に動かなかった」くせに、今になって「アリバイ的」に「開戦理由となる大量破壊兵器があったという情報は来ていなかった」などと発言する姿勢が不誠実だということは、大きな問題ではありません。正論を貫けなかった弱さも、それでも歴史の審判が怖いので安全な時期になってから弁解じみた言動をするというのも、人間の行動として尊敬はできませんが、理解は可能だからです。  問題は、そうではなくて、小泉純一郎首相とそのブレーンが2003年の当時に「ブッシュの開戦を支持」することが「日本の国益」だという強い信念を抱き、それを自衛隊の派兵という行動で示したという事実です。  その判断の背景にには、アメリカの主張した「イラクの大量破壊兵器保有」の証拠が明確でなく、また国際社会の広範な支持を得て「いない」からこそ、日本が支持することはブッシュ政権に「恩を売る」ことになるという計算が指摘できます。先ほどの福田発言は、本人の意図とは恐らく別に、そのことを裏付けています。  ターニングポイントとはこの点であり、これによって、日米安保体制の意味が変わり「サンフランシスコ平和条約による戦後処理の延長としての駐留」という性格も、「自由と民主主義を防衛するという理念の同盟」という位置づけも一気に薄まったのです。このことは日米関係に元からあった「功利的な軍事同盟」という性格を否が応でも強調することになったと言えます。  また、そのようにアメリカに「貸しを作る」ことで、ナチスと同盟して南進した東条政権の判断の正当化や、公益と秩序が天賦人権に優先する憲法改正などといった「西側の価値観」とは相反するイデオロギーが「漠然と許される」という「甘え」が拡大したように思われます。そのことで「中国にイデオロギー的な批判の口実を与える」懸念に関しては、「アメリカが守ってくれるから大丈夫」という安心感で相殺されるということが顕著になったと思います。  問題は、この「貸し借りのバランス」が不安定なことです。アメリカには「日本を見捨てる動機」は沢山あります。中国の経済的地位が更に上昇して関係の優先順位が変わった場合、在日米軍の経費負担がアメリカには耐えられなくなった場合といったカネ勘定に加えて、日本の「右傾化(左傾化による経済合理性放棄でも同じですが)」が許容範囲を超えてしまった場合は「政権が親日政策を維持できなくなる」危険があります。  安倍政権はそうしたことに危機感は持っているわけで、だからこそ辺野古の話も、集団安全保障の話も前に進めたいわけです。借りが増えれば増えるほど、貸しを作って相殺したいからです。ですが、借りと貸しが拡大すればその分だけ危険が増大します。第三者からは「理念ではなく打算の同盟」として軽蔑されることになりますし、日米の間にも同盟崩壊の恐怖が増大するだけだと思うのです。






イラク戦争について考える Newsweek

H.A


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