エスペラントの意義
出典: Jinkawiki
ロシア領ポーランドのビャウィストクで生まれたザメンホフは幼時から多民族(ユダヤ人、ポーランド人、ドイツ人、ロシア人など)、多言語かたやイディッシュ語、ヘブライ語、ポーランド語、ドイツ語ロシア語、リトアニア語など)、多宗教(ユダヤ教、ギリシア正教、カトリック、イスラムなど)の複雑な環境にそだった。当時特にユダヤ人は圧迫、迫害されていた。人々を仲良くさせる方法として、共通の国際語を作ることは、ザメンホフの幼時からの思想であった。同時に、鋭く繊細な言語感覚の持主でもあったザメンホフは、その考案した国際語を、実在のしように耐える、皆に納得される、芸術性をも備えた言語にしようとした。現在エスペランチスト(エスペラントでe-isto)は100万人、熱心な活動家は10万人であろう。 エスペラントはその思想とする国際主義・絶対的平和主義のために、特にスターリン時代のソ連、ヒトラー時代のドイツのような全体主義体制の元で圧迫、迫害され、今も東欧圏にあっては、その活動はまったく自由でないとする人もある。いろいろな政治的状況のなかで、特定の民族や国民が英語やロシア語などの大国の言語を学ぶことは、ときに強制され、時には事実上必須であるが、そのような言葉によって中小言語こ話し手の気持は十分には代弁されず、ただロシア人や英語国民にとっての有利さが増すだけである、とエスペランチストは主張する。実際、東欧にあっても大国のはざまにある中小国家民族群、たとえばボーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、ユーゴスラビアなどでは、熱心なエスペラントの運動は展開されているもようである。誰の母国語でもない、中立的言語であるエスペラントは踏まれても生き残る。しかし、それは逆に言うと、エスペラントはどこの国どの民族からも、とくに保護はされない。これに対してエスペランチストは、理想主義的国際主義の連帯をもって対抗するのである。 エスペラントは国際後としてある程度の実用性は持つが、今のところ大きな実利性をもたない。実理性から見れば自由国家群はもとより、ある程度は東欧にあっても、英語が他を圧して有利である。英語の実利性の相当の部分は、19世紀にあってはイギリスが、20世紀にあってはあめりかが、世界大国であることからきている。しかしこれを真の国際後にしようとすると、他の言語圏から反発される。それは英語を母国語とする人々を著しく有利にする。いわゆる(自然語)であるから、文法などの様々な面で規則的ではないし、、英米の文学、民間伝承、生活習慣に根ざすところも大きく、その学習は、入りやすいが達しがたい。優れた言語であっても、国際語となるには幾多の障害がある。とくに、現在、少数グループの固有の、失地回復の運動がある中で、それらの固有の言語と英語が択一されるとしたら、英語が生き残る可能性は乏しい。 それに比し、当初からエスペラントは、国民の民族語を滅ぼすことを目的とせず、民族語を保存しつつ、、相互の伝達のために国際補助語をも用いようという運動であった。現在のエスペランチストは現実的に、国境を廃止しようとせず政治からは中立に、国家と併合しながら国際的連帯をもとうとする。しかし趣旨から言ってそれはとうぜん、言語的覇権主義にはんたいであるから、言語的大国からはよく思われない。そのような意味で政治的に(危険な)言語とされる恐れが常にある。世界は急速に、民族間、国家間の平衡の方向へ進みつつあるが、脱民族・脱国家は、永久に実現されない理想であろう。しかしこの多元的言語正体の中にあって、エスペラントの理想をなおまったく軽視することはできない。数カ国語を自由に操る能力と暇は、万人には期待できず、英語のみの覇権は世界で承認されず、かつ英語が世界中に広がりそのアングロ・サクソン性を失うことは、民族の固有文化という大きな特徴を失うことに等しい。したがってエスペラント運動は消えないのである。
参考文献:世界大百科辞典(平凡社、2009年三訂版)、ザメンホフ―世界共通語(エスペラント)を創ったユダヤ人医師の物語(小林司著、原出版、2005年出版)