オルタナティブ教育
出典: Jinkawiki
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オルタナティブ教育
「標準的な'公立'または'国家コントロール'を受けた学校が提供する'伝統的'な教育よりもむしろ、特殊な教育方法やプログラム、活動や環境を求める子どもや家庭のためにデザインされた学校」つまり、フリー・スクールやインフォーマルで構造的でなく、地域に根差した「脱学校」の型をとる。普通学校で実践されている場合は、進歩主義教育の側面を打ち出した形であることが多い。
教育の背景
イギリスには親が子どもを「学校」へ行かせる義務はない。英国教育法(1944年版第36条、現1996年版第7条)は、「義務教育の年齢に達している子どもを持つ親はその子どもにあったフルタイムの教育を(中略)学校へ定期的に行かせることまたはその他の方法で与える義務がある」としている。'またはその他(or otherwise)'の部分は、王室や裕福な家庭では子どもを学校へやらずに家庭教師をつけていたことなどから付け加えられたといわれるが、この2語のおかげでその後の様々な形の教育が行いやすい環境ができている。例えばイギリスでは現在も最低5人の子どもが集まった時点で学校として教育省へ登録することができる。
「学校絶対視からの脱却」という意味において1970年代から80年代にかけて北米、英国を含むヨーロッパで「オルタナティブ教育-Alternative Education」と呼ばれる教育活動が盛んになった。オルタナティブ(Alternative)とは英語で「代わりの、別の、代替の」という意味である。
「産業社会」から「脱産業社会」に入った時期に、イリイチなどの近代文明批判と結びついた脱学校論が注目されるようになった。そして近代の制度としての学校が、過剰に制度化された近代システム社会の病弊を象徴するものとして取り上げられた。
オルタナティブ教育における哲学は、オルタナティブ技術を提唱した「スモール イズ ビューティフル」の著書で知られるシュマッカ-や、ジャン・ジャック・ルソー、ジョン・ニール、ジョン・デューイ、ルドルフ・シュタイナーなどの考えに影響を受けている。
様々な実践の形がある中で、オルタナティブ教育の実践者に多く共通している考え方してはミラーが以下の4つの点を挙げている。 (1) 教育を、人格の全体性(ホール・パーソン)-すなわち知性的、身体的、社会的、倫理的、創造的、精神的なレベルの統合されたシステムとしての人間の全体性-の成長を促進するものであると理解すること。 (2) 教育は、「いのちへの畏敬」に根ざすべきものであり、子どもの中でこれから開花しようとしている「いのち」への驚きと敬意から出発すべきものであること。 (3) 教育は、(教師中心でも児童中心でもなく)学習者と教育者の相互的な関係性があってはじめて成り立つこと。 (4) このような教育を実践しようとすると、必ず現在の社会との間で葛藤が生じるため、現在の社会を変革していくことと同時進行で教育をすすめること。
イギリスにおいても国定カリキュラムの導入やテストの増加など、一律の型にはまった教育が形作られていくにつれて、それに疑問を感じる親や教育者たちが子どもを家で教育したり、自分たちで小さな学校を設立していくようになった。
教育の形式
オルタナティブ教育においては決まった形式はない。親たちが集まって設立する小さな学校「スモール・スクール」や特定の信仰に基づいた教育グループ、明確な独自の思想を持つシュタイナー学校やモンテッソーリ学校もある。親やそのネットワークが地域の公園や図書館など様々な場所を使いながら主に家庭において教育していく「ホーム・エデュケーション」の形もある。教えられるカリキュラムも様々で国定カリキュラムに添って授業を進めていくグループもあれば、全く独自の方法で教育を進めていくグループもある。
形は異なっていても以上に述べたような哲学に基づき、子どもと大人の関係を大切にした教育活動が行われること、そして子どもが多くの主導と選択権を持つ実践が行われていることが特徴である。例えば日本にもよく知られている「フリー・スクール」であるサマーヒル・スクールでは、スタッフと子どもたちが同等に発言権を持ち、学校の運営や問題の大部分について話し合う。また、他人の自由を侵さない限り、自分の自由は保障され、授業の出欠席も自由である。
今後の課題
多くの子どもたちに精神的に安定し独立できる教育環境を提供してきたと共に、多くのオルタナティブ教育の試みには絶えず資金面の問題がつきまとう。デンマークやオランダなどとは異なり英国においてはいわゆる「私立」の学校には政府から資金的援助がない。1982年デボン地域の親たちにより開校された「スモール・スクール」も絶えず資金に困り、その後に続こうとする学校も開校後、数年で閉校してしまう場合が後を経たない。
またオルタナティブ教育は経済的に貧困である家庭や、教育を十分に受けられなかった保護者が実践していくことが難しい点があり、多くの子どもが通う「オルタナティブでない学校」も同時に変わらなければ、社会全体においてその教育的価値を高めていくことは難しい。
参考文献
『ホリスティック教育論―日本の動向と思想の地平』 吉田敦彦著 日本評論社