グローバリゼーション17

出典: Jinkawiki

目次

グローバリゼーションの多義性

20世紀から21世紀への時代の変化を捉えるキーワードとして、グローバリゼーションという用語がさまざまな専門分野で流通してきた。言説としてのグローバリゼーションが指し示す多義性は, おおまか①過程②状況③企図に分けることができる。すなわち、グローバリゼーションとは、①近代における交通や通信の発達、貿易や国際投資などの経済活動の拡大ならびに物的な富の増大によってもたらされた不可逆的過程としての越境的活動の拡大と明示的な境界の設定であり、歴史的に繰り返されてきた統合化と差異化の過程であるとともに、②グローバル資本や権力による政治・経済的な統合と格差の最新の局面であり、巨大企業による世界的な統合化と排除、グローバル・カルチャーの生産と消費などを通した世界的な均質化と差異化として表れる状況であり、③グローバルな動向を引き起こしてきた機構や装置や制度、ネオ・ナショナリズムを含むグろーバリズムのイデオロギー、国家的あるいは国家間の組織や機能の組み換え、それに対抗する反グローバリズムの運動といった、グローバリゼーションの諸主体による政治的企図である。 これら多義的なグローバリゼーションを対象とする研究領域は、人やモノから情報や文化と呼ばれるものの国境を越える移動の拡大を明らかにするだけでなく、ナショナルな枠組みを所与としてきた知の枠組みを組み替える作業である。それゆえ、グローバリゼーションをキーワードとした研究が政治・経済から文化・社会などの諸研究分野において行われ、また、ナショナルな歴史像に代わる新しい歴史像に代わる新しい歴史や認識が求められてきた。それはまた、国民国家の形成や展開とともに体系化し専門化してきた西欧中心的な諸科学全般の再検討を引き起こしてきている。

近代秩序の再構築をめぐるせめぎあい

世界の統合化に対応して、欧米を基準とする規範や様式、制度や機構、さらに生活様式を含めた文化までもが、あらゆる地域に浸透し、モジュールとしての近代国家は、グローバル化の浸透に適合した再編・強化を繰り返してきた。しかし大量殺戮を引き起こした世界戦争やレイシズムは、近代からの逸脱ではなく、合理性と効率性を追求してきた近代の帰結であり、 西欧中心的な思考と科学的普遍性ならびに近代管理社会への懐疑を喚起し、西洋的な権威を根底から揺るがすことになった。それゆえに、グローバリゼーションの時代と呼ばれる現代の特徴は、新たな差異化と統合化が, 欧米的権威の揺らぎを通して現れてきている点にある。政治や経済あるいは文化の越境的な活動の拡大によって、 匠代国家の重要な主権機能や規範が急速に衰退しているが、他方では、国際会計基準のようなグローバルな標準化に適合する調整を行う国家の管理や監視機能は強化されてきた。近代世界の基盤であった国民国家体制は、民営化や規制緩和という市場メカニズムのイデオロギーに従って、グローバルな世界編成に対応した機能的構造に組み替えられてきた。想像の共同体としての近代国家は、共同体的機能を市場へと委ねつつ、機能的制度化が著しく進められてきている。1990年の湾岸戦争から2001年のアメリカにおける同時多発テロ( 9・11事件)にいたる一連の状況を通じて、グローバリゼーションの具体的な展開は、軍事や安全保障をも含めたナショナルな装置の編成替えを通じて遂行されている。それゆえにその政治的企図は、国家機能の再構成からナショナリズムの新たな形態にいたる、近代秩序の再構築をめぐる諸主体の間のせめぎあいとして現れている。

反グローバリズム運動

グローバリゼーションは均質な空間を作り出したのではなく、シンボリック・アナリストと呼びうる専門家層と移民を含めた単純労働者や失業者、豊かさを享受できる層と排除される層、安全な地域と紛争地域といった分割が国境を越えて進行してきている。ナショナルな運動として始まった環境や女性、マイノリティあるいは開発といった問題をめぐる1960年代以降の新しい社会運動は、80年代から90年代以降、反グローバリズム運動として展開されてきている。反グローバリズム運動は、新しいナショナリズムと対抗しつつ、権利獲得や国家間対立という近代世界の秩序をいかに克服しうるか、という困難な課題を抱え込んで展開している。国境を越える経済活動の拡大は。世界のあらゆる人々を市場経済の中に巻き込み、これまで最低限の生存を支えてきた共同体的組織を解体した.。世界的規模で利用可能な低賃金労働者が創出され。南北問題が華やかに議論された時代とは比較にならない格差が生み出されている。貧困は、救済すべき対象から排除されるべき対象と変化し、環境問題や女性問題はグローバルな政治的企図に埋め込まれてきたという危機意識が強まり、これらの運動は、IMF・世界銀行総会、サミット、そしてダボス会議(世界経済フォーラム)といった新しい政治的グローバリゼーションの動きへの批判を強めている。

参考文献

日伊豫谷登士翁「グローバリゼーションとは何か」平凡社 2002 梅棹忠夫「世界民族問題辞典」平凡社 2003


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