トロンボーン
出典: Jinkawiki
<トロンボーン>
ほかの管楽器はピストンやキイ自体を押さえ音を変えているのに対して、トロンボーンはスライドを動かすことによって音の高さを変える。 中低音を担当することが多いが、スライドを使ったコミカルな表現などキャラクターも多彩なので、さまざまな場面で使用されている。オーケストラでは音楽全体を支えるハーモニーの役割からメロディまで幅広く活躍し、吹奏楽ではバンド全体を支え、その独特なサウンドで演奏に彩りを与えている。ジャズでも活躍する場面は多く、スタンダードな3管編成のセクステットからビッグバンドまで欠かすことのできない、トランペットやサクソフォンと並ぶ重要な楽器である。
<名前の起源>
トロンボーンという名前は、「トロンバ」つまりトランペットの大形のものという意味である。イタリア語系では、トロンバからいろいろに変化する。今日、トロンバといえばコンサート・トランペットを指しているが、ピストンのない時代から、多少大きくても小さくても、またスライド式であってもバブルがあっても、この名前が呼ばれていた。これが複数では「トロンベ」となって、特に小形のものは、「トランぺッタ」と呼ばれ、そして大きいラッパは「トロンボーネ」と呼ばれた。 フランス語系では、いわゆるラッパは「トロンプ」で小形のものは「トロンペット」と呼び、大形のものを「トロンボーヌ」と呼んだ。 イギリスでも、イタリア語をそのまま使用して、トロンボーンと発音しているが、ドイツでは昔あった古楽器の「ポザウネ」という語が使われている。
<活躍するのはベートーヴェン以降>
トロンボーンは、15世紀頃、ルネサンス期のスライドを持つトランペットを基にして、ブルゴーニュで作られた。11世紀頃に、イスラム圏の直管トランペットの「ナフィール」が、ビュイジーヌなどの名でヨーロッパ大陸に伝えられ、それがS字形に曲げられ、やがてこれにスライドが付加されたものとみられている。イギリスやフランスなどでは、「サックバット」などの名称で呼ばれ、イギリスでは18世紀後半まで、この名が用いられた。この名の語源はsaquer(引く)とbouter(押す)の合成語とみられる。トロンボーンの図形が最初に登場するのも15世紀末で、イタリアの礼拝堂に描かれたその絵は、現在の形にごく近いものとなっている。現存最古の実物は、1551年のもので、朝顔の開口部の直径は12~13㎝程、しかも先端部分はあまり広がっていない。 トロンボーンはすでに15世紀には定旋律部分を担当したり、合唱などで低声部を支えるなどして用いられた。このような用法は、この楽器の特徴の1つになり、トロンぺッテハーモニックと呼ばれることもあり、メルセンニョも『ハーモニー・ユニバーセル』という書物で言及している。16世紀には、シュタットプファイファーの楽器として頻用されたのをはじめ、G.ガブリエリは「サクラ・シンフォニア集」やカンツォーナでこれを効果的に用い、特に後者には12本ものトロンボーンを要する曲もある。この当時の楽器は、人声に近い、やわらかい響きが理想とされ、人声を重ねて用いるのみならず、重奏も好んで行われた。 トロンボーンが重要性を増すのは、ドイツの軍楽隊において、低音部を補強するために用いられてからである。そこではB管のテノールが採用され、19世紀以降のオーケストラおよび軍楽隊での標準的な楽器となった。交響曲楽作品にこれが加えられたのは、ベートーヴェンの交響曲(第5、6、9)以降であり、ウエーバーやシューベルト、メンデルスゾーン等を経て、ベルリオーズ、バーグナーに至って、本格的に使用されるようになった。 19世紀の後半には、バルブ式のほかに若干の改良型も考案されたが、いずれも全般的な性能は普通のスライド式に及ばなかった。配合種のテノール・バス以外では、メカニズムの改良よりも管を太くすることの方が成功し、テノールを太くするドイツ式の習慣は、ブラームス以後に軍楽隊から始まった。従って、現在のドイツ式によるベートーヴェン作品の演奏は、作曲者が予想した以上の音を鳴らしているのかもしれない。トロンボーン独奏曲や室内楽曲は、ベートーヴェンによる4つのトロンボーンのための「3つのエクワール」、リムスキー=コルサコフの協奏曲等、少数を除いては20世紀になってからのものである。
参考文献 小田桐寛之(1999)『うまくなろう! トロンボーン』音楽之友社