ナショナル・トラスト

出典: Jinkawiki

目次

概要

たくさんの人たちから少しずつ寄付を集めて、すばらしい自然や文化財を買い取り、それを永久に守る活動です。




ナショナル・トラストの始まり

19世紀の英国。産業革命とともに急速に自然が失われるなか、3人の市民が「ナショナル・トラスト」を考えた。ここでいう「ナショナル」は「国家の」ではなく、「国民の」を指す。英国のナショナル・トラストは、国民のために、国民自身の手で大切な自然環境という資産を寄付や買い取りなどで入手し、守っていく活動として始まった。


その後、1895年に非営利団体「英国ナショナル・トラスト(The National Trust)」が設立され、多くの人々から寄付が集まるようになった。ピーターラビットの生みの親でもあるビアトリクス・ポターもそのうちの1人である。彼女は、湖水地方の美しい風景を守るために1,700haを超える土地を買い取り、その管理維持を英国ナショナル・トラスト(The National Trust)にゆだねた。


このような公益性の高い活動は本来であれば、公有地化などを通じて行政が取り組むべきものである。ナショナル・トラストは、市民の慈善の精神を原動力として、行政の手が回らない部分を民間が補う活動のことをいう。


英国ナショナル・トラスト(The National Trust)は、公益的な活動として広く国民に知られるようになっていった。「1人の1万ポンドより、1万人の1ポンドを」を合い言葉に、一般市民のほか、貴族、首相、市長などさまざまな人の賛同を得て、草原、森林、湿地などの自然だけでなく、庭園、城などの歴史的建造物を次々と買い取っていった。1965年からは、ローマ神話に出てくる海の神様の名前を冠した「ネプチューン計画」を開始し、美しい海岸の保全を目標に、海岸線の買い取りにも積極的に取り組むようになった。


100年以上たった今、英国ナショナル・トラスト(The National Trust)はエリザベス女王の次に広い土地を所有する組織に成長した。350万人を超える会員の支援によって、約25万haの自然地を含む田園地帯、約1,100kmの海岸線などを所有している。最近では野生の生きものたちの生息地の保護にも力を入れている。




日本のナショナル・トラストの始まり

日本のナショナル・トラストがはじまったのは、高度経済成長期まっただなかの鎌倉だった。以来、全国にナショナル・トラストの輪が広がり、将来世代に引き継ぐべき日本の豊かな自然が、幾多の開発から守られている。


1960年代の高度経済成長期、各地さまざまな開発計画がたてられ、多くの自然豊かな場所がその対象となっていた。古都・鎌倉においても、鶴岡八幡宮の裏山である「御谷(おやつ)の森」が宅地開発の対象となった。行政による解決が難しかったことや、一刻も早い対応が必要であったことから、御谷を守りたい鎌倉の市民が立ち上がり、英国で取り組まれていたナショナル・トラストを取り入れて1964年に募金活動をはじめた。そして2年後、市民からの寄付金900万円と、鎌倉市からの600万円を合わせた1,500万円で1.5haの土地を買い取り、御谷の森を守ることに成功した。


1960年代は、公害問題を契機に市民の環境に対する関心が高まり、身近な自然や地域固有の文化の破壊を防ごうとする市民運動が芽生えた時代でもあった。その後、北海道の知床半島や和歌山県田辺市の天神崎などで、別荘地の開発を食い止めるために募金による土地の買い取り運動が繰り広げられ、その他の地域でもさまざまなナショナル・トラストが行われるようになった。




現在の状況

現在では、55団体(2008年8月現在)が、地域でそれぞれの風土に根ざした独自のナショナル・トラストを展開している。活動分野も、土地や建物の取得をはじめ、普及啓発や環境教育、まちづくりなど多岐にわたっている。


埼玉県でも5団体がナショナル・トラストを行われている。(その内3団体は日本ナショナル・トラスト協会正会員、2団体は特定非営利活動法人)




参考文献

社団法人日本ナショナル・トラスト協会  www.ntrust.or.jp/

財団法人日本ナショナル・トラスト  www.national-trust.or.jp/

トトロのふるさと財団  www.totoro.or.jp/

土屋清 2003 「新現代社会資料2003」 実教出版

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