パブリックスクール
出典: Jinkawiki
目次 |
パブリックスクール
イギリス独特のいわゆる紳士の教育を目的とする私立中等学校。イギリスでは私立学校を「Independent School」、公立学校を「State School」と言い、パブリック・スクールは高い授業料を払う「Independent School」に属する。もともと王侯貴族や僧侶等、国のために高い教養を求められていた特権階級の人々のための教育機関だったものが、中世期以降には学校として設立され始め、授業料を払えば階級に関係なく誰もが入れる(Public)ようになっていった推移がある。だからと言って私立校であれば全てパブリック・スクールになるのかと思えばそうではなく、英国社会でのエリートと呼ばれる人々、例えば政治家、学者、医師、弁護士、企業家などを輩出してきた長い歴史と実績を持つ学校、名門のボーディング・スクール(寄宿制の私立中等学校)がそれに該当する。パブリック・スクールの定義や法律などはなくて、現在では校長がHMC(Headmasters’ and Head mistresses’ Conference)と呼ばれている校長会議に加入を認められている私立学校で、教師の質やその教育内容、設備など学校の水準が一流とみなされている全寮制、全日制の学校と考えてよい。イートン、ウィンチェスター、ウェストミンスター、チャーターハウス、ハロー、ラグビー、シュールズベリー、セント・ポールズ、マーチャント・テイラーズという日本でも知られている伝統的な九大パブリック・スクール(9 great public schools)を含む約250校をさす。 映画「ハリー・ポッター」のロケ地として一躍有名になったキングス・スクール(The King’s School)は1541年にヘンリー8世によって設立されたパブリック・スクールの一つである。
パブリック・スクールのシステム
校長が最高権力者であり、学校生活のあらゆる部門が校長を中心に運転される。教職員会議はなく、教職員は校長にのみ責任があり、校長の信任によりその職にあるのだ。校長の社会的地位は非常に高く、校長は比較的若くに就任し、終身この地位を動かない。校長は個々の学生が学校生活に精進するために心身共に常に最善の状態にあることに対して個人的な全責任を負っている。つまり、校長の行動にスクールが影響され、校長次第で学校が変わっていくのだ。 パブリック・スクールには他に、ハウスマスターと教員がいる。ハウスマスターは「教員の中で各寮に専属し、学生と起居を共にして、学生の訓練にあたる教員」であり、ハウスマスターの優劣が寮の気風に反映される。マスター達は生徒のことを思った指導をし、そのために強い忍耐力が必要だ。教員達もまた学生に教訓を伝える。しかし相手に言い分があれば十分言わせ、自己の誤りに気付けばこれを認めて撤回する態度ももっている。 その他では、プリーフェクトの制度がある。プリーフェクトは「最高学級に属し、人格成績衆望いずれも他の生徒の模範となり、何らかの運動競技の正選手をしている者の中から、校長によって選ばれ、校内の自治を委ねられた数名の学生」である。「弱いもの苛め」を無くすことを目的として作られた制度で、彼らは学生の調停を行う。プリーフェクトに選ばれた者は尊敬の対象とされ、名誉ある経験をする。
パブリック・スクールの生活
パブリック・スクールでは、大学進学につながる高い学力をつけられるその教育カリキュラムだけでなく、知的教養と強い精神を兼ね備えたひとりひとりの人格形成に力を入れているのも魅力のひとつである。 学生は1学期に2回の休日と週末の30分間以外は郊外外出禁止で、外出先も規定される。自由な世界を学生から遠ざけるために大学訪問も禁止されている。イギリス青少年はあらゆる機会において規律を守り、服従せねばならないという精神を植え付けられる。衣服について制服は無いが、皆質素な格好であり、ネクタイは黒か学校のカラーに限られた。住居は私室が与えられないで、共同部屋である。食事は質量共に劣悪で夜食もない。栄養のない食事だが、食事のために健康崩したものは誰もいないようだ。休日が生徒達にとって一番の楽しい時で生徒は思い思いの場所に出発する。 一日のスケジュールは、朝8時から昼1時までが学課で、昼食後は運動競技をする。その後は学課自習や士官訓練や音楽練習などを行い、次いで大講堂で自習をする。この間は真剣に勉強することを義務づけられ、その時間以外に勉強することは禁じられている。日曜日では学課と運動も禁止されて、日曜礼拝・聖書講義のみを行う退屈な安息日である。夜は家族へ手紙を書くことになっている。このような生活を生徒は最初苦しむが、忍耐の精神が生まれて次第になれていく。 学課は、従来の古典偏重教育が矯正されつつある。学年は6つで学年は年齢と関係がない。入学年齢も卒業年齢も様々であり、試験によって進級が決まる。落第が多いので落第に対する恐怖心が少なく、したがって不正行為もないようである。学生生活が試験に支配されることがない。授業は講義だけでなく、学生相互に討議させて教師が正しい結論を導き出すという点に重きをおいている。週2度軍事教練も行い、士官としての心構えや兵の運用統率を重点的に学ぶ。問題点は学習時間を制限したりして、学生の知的発達を阻害している点である。また、人格育成を歴史や哲学でなく、古典によってのみ行うこともあげられている。 規則を破った生徒には罰則が与えられる。罰則は与える側、与えられる側の相互の妥協によって成立する。生徒が教師の与える罰則に納得しなければ、罰則は成立しない。その反面、不正手段で罪から逃れようとした者に対しては極刑が下される。罪を犯したら男らしくこれを認めて罰を受けるのがパブリック・スクールの精神であるからのようだ。
このように教育水準の高いパブリック・スクールに入るため(子どもを入らせるため)、その下には準備校となるプレパラトリ・スクール(プレップ・スクール)というのがある。イギリスの私立校では中等教育(Senior school)前の初等教育(小学校)はJunior schoolと呼び、5歳から11歳までの6年間になります。このプレップ・スクールにも名門プレップ・スクールというのがあって、名門パブリック・スクールと特別なコネクションがあったりするため、目標のパブリック・スクールを決めて、子どもにプレップ・スクール入学の準備を幼少からすすめていく親も多いようだ。そしてこうしたプレップ・スクールには2~3歳から5~6歳までの幼児を教育する学校(プレ・プレパラトリ・スクール)というのがあり、上のプレパラトリ・スクールに付属している学校が多いのが特徴。子どもの教育に熱心な両親はパブリック・スクール入学を目指すため、受験対策を2~3歳ですでに始めているという。ただ日本と大きく違う点はイギリスの場合、ほとんどの名門ジュニア・スクールには試験がなく、財力、家柄で入学が決まる。
*参考文献*
・「All About「短期留学・ワーキングホリデー」旧ガイド」
http://allabout.co.jp/study/homestay/closeup/CU20070321B/
・「自由と規律」池田潔著 岩波新書 1949年
・「英国パブリック・スクール物語」 伊村元道 丸善ライブラリー 1993年