ベック
出典: Jinkawiki
概要
認知療法を創始した精神科医。イェール大学医学部を卒業した後精神分析療法を行っていたが,うつ病の精神療法的研究を通して認知のあり方がうつなどの情緒状態と深く関連していることを明らかにして,短期間の構造化された面接で非適応的な認知を修正することによってうつ病やパニック障害( 恐慌性障害)などの精神疾患を治療することを目的とした認知療法を提唱した。ペンシルヴェニア大学教授を退いた後ベック研究所を開設している。
認知療法
ベックにより始められた認知療法は,認知の歪みに焦点を当てることによってうつ病やパニック障害など精神疾患の治療を行うものである。認知療法の特徴は,知覚・情報選択・短期記憶/長期記憶・判断・予測などの認知のフィルターを通した主観的体験が人間の情緒体験と密接な関係をもつという理解に基づいている点にある。認知と情緒反応の関連を考え,その認知過程の極端な歪みを修正することが情緒障害の治療につながると考えるのである。この認知の歪みは大きく分けると自動思考と仮説/スキーマという二つに現れる。自動思考とは,ある状況下で瞬間的に浮かぶ考えやイメージである。これは完全に意識化されていない場合もあるが,比較的表層にあるため注意を向ければ簡単に意識化することができるようになる。この自動思考の同定と検討が治療初期の目標となっている。仮説/スキーマとは,心のより深層に存在している自己・世界・将来に対する仮定的確信・心的態度・心的規制である。これは,先天的要因と環境的要因の影響を受けながら発達過程で形成されてきたものであり,対人関係様式や行動パターン・思考パターンに現れる。そのため長く繰り返されてきている対人関係様式や行動パターンなどを検討することによって明らかになってくるものである。治療をする際は良好な治療関係,特に患者と治療者が一緒に患者の認知のあり方を検証していく実証主義的共同作業が重視される。治療者は支持的な質問を用いて患者の確信を検証可能な仮説に変換するよう努力する。実際の治療ではまず問題を明確化し自動思考を同定・検討し,さらに仮説/スキーマを検討する。そして最後に治療全体を総括して将来の展望を話し合う。その過程では不適応的思考記録やホームワークを通じて認知の歪みを検討するが,よくみられる歪みには,証拠が不十分なまま思いつきを信じ込む恣意的推論いつも白黒をつけようとする二分割思考情報選択が偏る選択的抽出気になっていることばかりを重要視してそれ以外のことを矮小化して考える拡大視・縮小視すぐに決めつけに走る極端な一般化自己の感情状態から現実を判断する情緒的理由づけ,すべて自分と関連づける自己関連づけなどがある。