ペスト2
出典: Jinkawiki
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ペストとは
病原体はペスト菌とされている。1894年、香港のペスト流行に際して、日本の北里柴三郎とフランスのアレクサンドル・イェルサンが別々に発見、発表するものの、第一発見者は雑菌を分離して発表したイェルサンのものになった。ペスト菌は本来リスやネズミなどの齧歯類の体内にあってペストを発症させる感染源であるが人間の近くに住むクマネズミ、ドブネズミなどに広まり、人に感染するものとみられる。ネズミから人への感染メカニズムはノミを媒介する。(1898年インドのボンベイでフランスのポル=ルイ・シモンが発見)ノミは感染したネズミの血液を吸う→ノミはペストに感染→体内でペスト菌を増殖→ノミが人を刺咬する→傷口からペスト菌が人の血液中に注入→人を感染させるといった経路で広まっていく。人から人へは空気感染および咳や霧状のつばによって伝えられ、つばは会話で約2メートル、咳やくしゃみで3〜4メートル届き、鼻、口、肺、粘膜を通して体内へ浸透し感染する。
症状と死亡率
通常3種類存在する
○腺ペスト…一般的なペストのこと。ペスト菌が体内へ入って2〜6日の潜伏期間ののち発症する。悪寒または戦慄を伴って発熱する。中世から19世紀までは嘔吐とときには下痢も指摘された。頭痛、めまい、虚脱、精神錯乱を伴う。
・感染から2〜3日目:ノミに刺咬された付近のリンパ節や鼠径部、下腿部のリンパ節などが大きく腫れ炎症を起こし、激しく痛む。このことを横根および腫脹という。
・感染から3日目頃:全身の皮膚に出血性の紫斑や小さな嚢胞があらわれる。この頃が生死の転機になり、重症例だと敗血症へ移行する。その場合は横根をも見られず、せいぜい出血が見られるだけで死亡する。
○肺ペスト…腺ペストの発症中に菌血症から肺炎を併発してなるペストのこと。皮膚の紫斑やリンパ節の腫れは見られないか、あっても軽微である。その代わり、血痰や喀血などの症状が加わる。呼吸困難が生じ、やがて息をするにも座りこまなければならなくなる。患者は咳を頻繁にして痰を吐き、最後はチアノーゼがあらわれた仮死状態になる。
○敗血症性ペスト…電撃的に発症する。40度以上の熱を出し、たちまち無気力状態に陥る。発症後、数時間から1日で死亡する。それは腺ペストの悪化によるもので、血液の循環機能の低下を起こす。死亡は発症後3~5日が多い。
病態から見ると、腺ペストによる死亡率は比較的低く、肺ペストによる死亡率は高く、敗血症性ペストによる死亡率はほぼ100%であったとされている。
ペストの特性
ペスト菌は置かれた環境によっては長時間生き続ける。患者が咳をして唾や痰が飛び散り、それらが衣類や寝具に付着すると、やがて時間の経過により水分は蒸発するが、ペスト菌は残留して5ヶ月以上生き続ける。そのため、患者の使用した衣類や寝具がそのまま片付けられ保湿性のある部屋の隅や箱の中に入れられると、東ヨーロッパの酷寒でも菌は残ってしまう。
さらに、ペスト菌は湿った地中にある死体のような組織の中では、7ヶ月以上も生き続け、冷凍した動物の組織からは7年後にもなお毒性のある菌を取り出せたと言われている。大量死が生じると遺体の埋葬に追われ、墓穴は浅くなる。遺体を何層にも重ねて埋葬する場合、上層の遺体は尚更浅くなる。この状態で多量の雨が降れば、雨水が染み込みペスト菌が再び地表へ染み出すことになる。
しかし、ペスト菌は通年、気温に左右されずに生きるわけではなく、比較的熱に弱いとされている。せいぜいのところ摂氏マイナス2度からプラス45程度の間しか生存できず、増殖の最適温は26度である。その特性のため、中世の黒死病流行期にスカンディナヴィア半島北部とフィンランドがペストに蹂躙されず、また、アフリカのサハラ砂漠以南の地方が直接的にはペストの侵入を受け付けなかった。さらに、ペストの流行は春から秋にかけて隆盛を極め、寒い冬を迎えると鈍化するか消滅するとされている。
最後に、ペスト菌は一定期間の免疫をもたらすと言われている。フランスのジャン=ノエル・ビラバンは免疫の期間を個人によって数ヶ月から数年に及ぶとしているが、9年とも指摘していて矛盾している。
世界的流行
ペストには世界的流行が今日まで3回あった。
○第一次流行
・時期:541年〜767年
・原発地:白ナイル川の源流地域〜現在のウガンダ、ケニア、タンザニア、アラビア半島付近
・流行地:地中海沿岸地方、ヨーロッパ内陸部、ブリテン諸島
・特徴:腺ペストの流行とされており、東西ローマ帝国を荒廃させた。
○第二次流行
・時期:1340年代〜1840年代
・原発地:中央アジアが有力説
・備考:最初にヨーロッパ人がペストに遭遇したのは1347年、南ロシアのクリミア半島にあるジェノヴァ人居留地カッファでのことであった。当時そこを支配していたジェノヴァ人は知らずにペストをヨーロッパへ持ち帰り、それ以来ペストは黒死病として腺ペスト以下3種類の病態を示して流行し、大荒廃をもたらした。
○第三次流行
・時期:1860年代〜1950年代
・原発地:中国の雲南省
・流行地:インドのボンベイ、アフリカ、マダガスカル島、オーストラリア、ハワイ諸島、アメリカ西海岸など
・備考:はじめは人口密度の低さと交通手段の貧弱さのために緩慢な移動をしていたが、1896年に船でボンベイへ侵入した結果、爆発的な流行をすることになった。
黒死病
ペストによる死者の身体は死の直前黒っぽい斑点に覆われ黒ずむので、その見た目から黒死病とされている。実際には腺ペスト患者の末期症状を指している。
日本におけるペスト
日本固有の病ではないが、1899年にはじめて神戸に上陸し、関西を中心に流行した。しかしペスト全体の犠牲者は2420人と少数で、社会に与える影響は小さかった。
(編集者key719)
参考資料
野中邦子訳「黒死病 ペストの中世史」(2008年)中央国論新社
宮崎揚弘「ペストの歴史」(2015年)山川出版社