モンテッソーリ教育
出典: Jinkawiki
モンテッソーリ教育(モンテッソーリきょういく Montessori method)とは、1907年イタリアの医師マリア・モンテッソーリ(1870~1952年)によって考案された教育法である。イタリアのローマで医師として精神病院で働いていたモンテッソーリは、知的障害児へ感覚教育法を施し、知的水準を上げるという効果を見た。1907年に設立した、貧困層の健常児を対象とした保育施設「子どもの家」において、その独特な教育法を完成させた。以後、モンテッソーリ教育を実施する施設は「子どもの家」と呼ばれるようになる。世界各国で一世紀の長さに渡って普及し、その効果が実証されている。
モンテッソーリ教育では、人間として完成するのは24歳頃とされ、それまでの発達段階を4段階に区切っている。この発達段階ごとに、子供の成長に役立つ原理は異なる。モンテッソーリ教育は日本では「幼児教育」で有名であるが、決して「幼児教育」の意味だけではない。なぜなら、モンテッソーリ教育の目的は、それぞれ発達段階にある子供を援助し、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間に育てる」ことだからである。この目的を達成するために、モンテッソーリは子どもを観察し、そこから得た事実に基づいて教育法を構成し、独特の体系を持つ教具を開発した。その教育法の正しさは、現代の大脳生理学、心理学、教育学などの成果によって証明されている。
アンネ・フランクはモンテッソーリ・スクールの卒業生である。この他にも、モンテッソーリ教育を受けた有名人は世界中に数多くいる。Amazon.comの創立者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)やgoogleの共同創立者サーゲイ・ブリン(Sergey Brin)とラリー・ページ(Larry Page)、そしてwikipedia創設者ジミー・ウェールズ(Jimmy Wales)などが挙げられる。
モンテッソーリ教具と感覚教育
モンテッソーリ教育で必要不可欠なものとして、教具が挙げられる。教具とは、モンテッソーリの感覚教育法に基づく教材であり、木製玩具のことである。モンテッソーリとその助手達が開発した。モンテッソーリ教育法では教具の形、大きさは無論、手触り、重さ、材質にまでこだわり、子供たちの繊細な五感をやわらかく刺激するよう配慮がなされている。また、教具を通し、暗記でなく経験に基づいて質量や数量の感覚を養うことと、同時に教具を通して感じ取れる形容詞などの言語教育も組み込まれている。
モンテッソーリ教育の特徴
モンテッソーリ教育では、子ども達が安心して自由に遊び、作業のできる環境整備が重視される。そのためには、子ども達が自発的な活動に好きなだけ取り組む自由を保障すると共に、「整えられた環境」を準備することが重要である。教室が清潔に保たれ、子供の目線で教室を見渡せることにも配慮が求められる。以下、モンテッソーリ教育の特徴を3点挙げる。
1つは、自由に個別活動することである。モンテッソーリは、子供を観察するうちに、月齢や年齢ごとに子供たちの興味の対象が次々と移り変わる点に着目した。脳生理学に基づき、さまざまな能力の獲得には、それぞれ最適な時期があると結論付け、これを「敏感期」と名づけた。この子供たちの「自由」の保証と、「敏感期」を育むことが、モンテッソーリ理論の視点に立つものである。つまり、子どもは集団で同じことをするのではなく、一人ひとり自分の敏感期の活動に出会えるように、自由に個別活動を行っているのである。自分で自分の活動を選び、自分のリズムで納得行くまで繰り返し活動することが、特徴の一つだと挙げられる。
2つ目は、どの子どもにもある知的好奇心の自発性が尊重されるべきであることから、周囲の大人はこの知的好奇心が自発的に現れるように、子どもに「自由な環境」を提供することを重要視しなければならない点である。そのためには、子どもが自分で自由に教具を選べる環境構成を作り、やってみたいと思わせる面白そうな教具を揃える。また、子どもそれぞれの発達段階に適した環境を整備し、子どもの自己形成を援助する教師が重要である。
3つ目は、社会的・知的協調心を促すための、3歳の幅を持つ異年齢混合クラスの編成である。このクラスの中で、子ども達はお互いから学び合う。年下の子どもは年上の子どもの活動を見て学び、年上の子は年下の子に世話をすることや教えることで学ぶのである。
モンテッソーリメソッドの5分野
子ども達のそれぞれの敏感期を背景に、5つの分野の仕事に分けられる。
1、日常生活の練習
洗濯やアイロンがけなど日常生活の様々な練習を通し、自分の生活を依存から自立へと成長させ、さらには精神的にも自立する心を育てる。この時の用具の特徴として挙げられる点は、子どもが扱いやすいような子ども用サイズのものであること、子どもが思わず手を出したくなるほど色彩や形が魅力的であるもの、そして清潔であることである。清潔さは、簡単に洗えて常に清潔に保つことができ、子どもが汚れに気付くものを用具として使う。また、落とせば割れてしまう陶器やガラス製のものなど、本物であることも重要である。本物の用具を使うことによって、本物の持つ美しさを感じられたり、壊さないように慎重に扱うことに慣れる練習をするのである。
2、感覚教育
モンテッソーリは、子どもは3歳から6歳の間に、視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚の五感が著しく発達する特別な時期があることに気付いた。感覚の発達は知的活動の基礎となるため、モンテッソーリ教育の中でも特に重要視されている。具体的には、大小・高低・太細など視覚を養う円柱さしや、粗さ滑らかさなど触覚を養う触覚板、聴覚で音の高低さを識別する音感ベルなどの教具がある。これらの教具は、1セットずつ備えておくなど制限があることが重要である。自分のやりたい教具を友達が使っている場合に、待つことを覚えたり、社会性やマナーを身に付けたりするのである。また、教具の使い方に誤りがあれば自分で気付くように工夫されている教具であると共に、子どもの成長や文化的発展に連なるような教具であることも大事である。
3、言語教育
コミュニケーション力は社会生活の基礎であり、また、思考の道具である言語は人間にとってとても大切なものである。モンテッソーリ教育では、「話す」「書く」「読む」だけではなく、「文法」も学ぶそうだ。50音表の1字1字がバラバラのパズルになっている50音並べや、絵と文字のカードを合わせて遊ぶ絵合わせカードの教具がある。
4、算数教育
数を表す要素には三つの形態があり、モンテッソーリの算数教育では、これらを三者と表しているようだ。三者とは、具体的に感覚で捉えることのできる物「量物」、その量物を言い表す時に使う「数詞」、書き表す時に用いる記号の「数字」である。数量を量として捉え、数詞を言い表すことができ、数字を書き表すことが出来たというように、これら三者が一致した時に、初めて数量概念を身につけたと判断する。具体的な教具は、10進法のビーズや算数棒と数字カード、切手遊び等が挙げられる。
5、文化教育
動植物、地理、地学、歴史、道徳(宗教)、音楽、体育、美術などが含まれる。生命の神秘への興味や芸術に関する表現力など、多岐にわたった能力を育む。太陽系の惑星の模型や世界地図・日本地図パズル、動植物の絵カードの教具がある。
モンテッソーリ教師の心得12か条
モンテッソーリ教育法では、教師は「教える人」ではなく、子どもを観察し、自主活動を援助する人的環境要素、つまり環境の担い手の一つと考えられている。彼らには、教具などを扱う技術や管理する能力も要求されるが、何より子供を注意深く観察する態度が要求され、各々の子供たちの欲求に沿ってその教育を提供する注意深さが求められる。また、子供たちの集中時、それを妨げない心遣いや、子供の自発性を待つ姿勢も重要な要素となる。モンテッソーリは、子どもと大人のよい関係の指針として、「教師の心得12か条」を示している。 (以下「おかあさんのモンテッソーリ」(サンパウロ/著:野村 緑)から引用)
1.環境に心を配りなさい。
…環境を整え、間接的に子どもを導くことが重要である。
2.教具や物の取り扱い方を明快に正確に示しなさい。
…子どもに的確な援助をするために、教師は教具の使い方を繰り返し練習しなければならない。
3.子どもが環境との交流を持ち始めるまでは積極的に、交流が始まったら消極的になりなさい。
…能動的な精神を持ちながらも、子どもが仕事に集中している時は受動的な立場で、暖かく見守り観察する。
4.探し物をしている子どもや、助けの必要な子どもの努力を見逃さないよう、子どもを観察しなさい。
…子どもの喜びを大人の代行で奪ってしまわないようにする。しかし、助けが必要なタイミングは逃さずに、常に子どもを観察する。
5.呼ばれたところへは、駆け寄り、交歓しなさい。
…呼ばれた時にすぐ行けば2・3分で済むことも、そうしなかったために30分かけてもダメということにならないようにする。
6.招かれたら、耳を傾け、よく聞いてあげなさい。
…子どもが直接、言葉で表現していない要求も含めてくみ取るようにする。
7.子どもの仕事を尊重しなさい。質問したり、中断したりしないように。
…大人の一方的な都合で、子どもの仕事を中断したり、妨げたりしないように心がける。
8.子どもの間違いを直接的に訂正しないように。
…大人が思っている以上に子どもはプライドが高いので、直接的に間違いを正すのではなく、子ども自身に気付かせるようにする。また、間違わないように仕向けることもしない。間違うことで学んでいくのである。
9.休息している子どもや他人の仕事を見ている子どもを尊重しなさい。仕事を無理強いしないように。
10.仕事を拒否する子ども、理解しない子ども、間違っている子どもは、たゆまず仕事への誘いかけを続けなさい。
…9と10の子どもの様子は、外見上は同じように見えるが、内面は全く逆である。これを見分けるためには、日頃から子どもをよく観察していなければならない。
11.教師を捜し求める子どもには、そばにいることを感じさせ、感づいている子どもには隠れるようにしなさい。
12.仕事がすんで、快く力を出しきった子どもを静かに認めながら現れなさい。
…決して安っぽい言葉で褒めない。子どもの心に安らぎを与えられるような言葉を掛けたり、態度で示すことが大切である。
参考文献:「第3回 文教大学 海外人間科学 北欧研修」資料・現地レポート、ウィキペディア、http://allabout.co.jp/children/infanteducation/closeup/CU20080521A/index3.htm
http://www.l-net.com/lgs/banbena/monte.htm
http://eigobon.weblogs.jp/articles/2007/09/1_7c83.html