ヨーロッパの就労の変化

出典: Jinkawiki

==ヨーロッパの就労の変化== ヨーロッパで女性の労働が社会問題化したのは19世紀である。それまで女性の労働の場は、家庭内あるいは小規模な作業所であったが生産が工業化されるにともなって女性賃金労働者が増えた。この現象がどのように問題化されたについては、J=W・スコットが当時の言説を分析して描き出しているが、その当時の社会がすでにもっていた、性別抑割分業の認識の延長上に工業化以降の女性労働もある。すなわち、女性の仕事は家庭内のなかで行う家事や育児が主で賃金労働は従であるという認識である。その認識は女性の労働が家事育児に支障をきたさないことを求め、また女性にとって賃金はそれほど重要ではないという決めつけ生む。雇用者の側が女性を雇う理由は、体力や熟練を必要としない業務になるべく低い賃金で雇えるのが女性であるからということになる。しかもこのような前提は家庭にある既婚女性のみならず、就労する独身女性にも適用された。結局女性は低賃金で熟練を要しない仕事に就くという図式が出来あがる。その結果女性向けの職種もまた創出した。男性労働者にとっては女性労働者が賃金を引き下げるファクターになるおそれがあり、しかも非熟練職種に関しては雇用口を争う競争相手ともなる。ゆえに、組合に入れて共闘する同志とは認めなかった。女性労働者の保護は国が行うことになる。その保護は深夜労働の禁止(1892)、産休の権利(1909)などがあるがこれはいずれも、既婚女性が妻・母としての任務を果たすことを重要視するゆえのものであった。フランスにおいては、1804年のナポレオン民法典によって既婚女性は法的に無能力であると規定されており、1938年に夫権が廃止されたものの、夫の許可なしで就労可能になるのは1966年になってからである。1968年以降になってはじめて、妻・母であることは関わりない労働条件改善策がとられるようになる。具体的には1972年同一種男女同一賃金の原則、1975年雇用に関する性差別禁止法、1983年男女職業平等法、1992年職場のセクシュアルハラスメントを刑法上の犯罪にする、など。職業における性差別を女性が不当と感じるようになったのは、女性が労働市場に多数進出し、しかも男性と同様の能力と責任が自らにあることを自覚し始めた時からである。 現在、フランスもその1つである先進国においては代議制民主主義のもとで、男性と女性ではたとえ体力など個別的な力に性差が伴うとしても、政治的代表を選択する力において性差はないとされている。すなわち一票の重さに性別よるバイアスがかかったりしない。したがって女性も男性と同じ判断力をもつ必要があり、女性にも男性と同じ教育を与えることが原則となる。そのことが女性に男性と同等の知的能力や判断力を得る機会を与えることになって生活力一般に関してアプリオリに性差が認められなくなる。多くの女性は第三次産業の領域で就労する機会を得ることになる。さらにフランスの女子の進学率は年々上昇しており、高学歴の女性ほど失業や性差別から守られているために高学歴女性の職場進出が増える。そしてそれがまた女子の進学率を上げる結果となる。(2000年の性差別および資格別による失業率の表より)このようにして家庭以外の世界すなわち公的領域が女性に開かれていくと、女子の描く未来像も妻・母だけでなくなり多様化するが何よりも社会全体の個人主義化のともない女性も経済的独立の必要性を自覚する。というわけで、学習を終えた女性は就労することを当然の進路として受けとめる。女性の就労はセーフティネットであるだけでなく、市民社会の誕生から教育の男女平等を経た歴史の必然と考えられる。


参考文献 *https://www.waseda.jp/inst/weekly/academics/2017/04/21/24210/ 〈国際政治学〉ヨーロッパ統合の意義と イギリスのEU離脱問題 *http://www.esri.go.jp/jp/seisaku_interview/interview2015_08.html 欧州経済の現状と課題|内閣府 経済社会総合研究所 *『20世紀ヨーロッパ社会経済史』浅井淳平(1991) 名古屋大学出版会 *『21世紀ヨーロッパ学:伝統的イメージを検証する』支倉寿子・押村高(2002) ミネルヴァ書房


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