ヨーロッパの政治の動き

出典: Jinkawiki

==ヨーロッパの政治の動き==  西ヨーロッパ各国は、戦後復興期ともいいうる1950~60年代に未曾有の経済成長を謳歌した。この期のヨーロッパで産業社会が高度化したことを示す指標は、農業人口の減少、都市人口の激増、生活スタイルの平準化、大量生産・大量消費スタイルの浸透、社会階層の二極化などである。当時の国民意識の在り方はこれらの戦後変化の第一の波により規定を受けていた。すなわちこの復興期に目指されたのは「経済的安定」であるが「国民」総生産を伸ばし、高い成長率を勝ち取り、また国民の需要に持続的に応えるために組織させた産業システム、社会システムは物理的にも心理的にも国民の連帯を促すよう作用したのである。なかんずく産業社会の特徴である職場労働ないし工場労働は価値のプライオリティーを国民の総所得の増加、平均賃金の上昇、社会福祉の充実、また完全雇用の確保、物価の安定、治安の保持、領土の安全の保障など、国境内空間における経済的安定、物質的快適さに置かせた。また農産物の生産、流通、消費においても国家は保護的な貿易政策を敷くことが許され、国益の名の下に自国の農家を援助していたのである。このような国民経済は、国民意識が自然なものと見なされるための重要な要因であった。1960年代に入ると高度経済成長による社会の歪みが顕在化し、特に60年代後半は西ヨーロッパ全体で労働争議、市民運動、学生運動が激化する。1970年代にはオイルショックを境に、低成長を基調とするポスト産業へ突入。1980年代は労働者が相対的に富裕化、多極化し、また都市中間層が台頭したため「労働者階級」の輪郭が曖昧になったが、ポスト産業社会におけるこのような労働者意識の希薄化により労働組合はいっそう有名無実化しヨーロッパ社会は「労働者なき資本主義」とまで形容されるに至った。このように国民意識が長い間闘ってきた「階層による分断」が終焉したことは、まさしく国民意識の標的の1つが失われたことを意味した。さらに1990年代以降、「成長か環境か」、「移民の排斥か寛容か」、「競争力か雇用か」、「自由化かレギュレーションか」、「グローバル化か国内市場優先か」、「EUへのさらなるコミットは必要か否か」といった細かなイシューが世論の分岐点を形成するようになった。  現在のヨーロッパの第1の観点は、ヨーロッパ統合が「主権国家体系」の変容あるいは部分的な超克を目指して進んでいるということである。中世から近代への大変動期に勃発した三十年戦争の講和条約・ウェストファリア条約が1648年に締結されて以降、ヨーロッパ社会では「主権国家体系」が作られ、世界に拡大してきた。しかし1939年から1945年まで続いた第2次世界大戦の反省から、ヨーロッパにおいて新たな国際秩序が模索されることになる。1950年代に設立された石炭鉄鋼共同体(ECSC)や経済共同体(EEC)を経て、EU(European Union)へ共同体の枠組みを発展させるに伴って、加盟する各国家は特定の機能領域における自律性や権威を失い、最終的に主権の一部を共同体へ移譲したのだ。「国家の後退」を経験しながら、既存の「主権国家体系」を変えよう・超えようとするこうした試みそのものが、ヨーロッパ統合の本質的意義の一つといえる。第2の観点は、ヨーロッパ統合が「安心共同体(安全保障共同体security community)」づくりに向けて進んでいるということだ。数々の戦争を経験してきた仏独の歴史的和解を目指してECSCが創設されて以来、ECSCおよびEECの加盟諸国同士が再び戦争をしなくても済むような空間が生み出されてきた。こうした安心共同体づくりを目指す政治的な営みが継続的に遂行されてきたことも、ヨーロッパ統合の本質的意義の一つに数えられる。そうした中、イギリスは1973年にEECへ加盟したが、ユーロ(共通通貨)を導入せず、人の自由移動を本格的に進めるためのシェンゲン協定も締結していないことから、仏独とは異なりEUのフル・メンバーとはいえなかった。しかし、EU以外にもさまざまなヨーロッパ地域および大西洋地域の諸機構に加盟しており、広義のヨーロッパ統合を推進する重要メンバーであり続けていたといえる。しかし、そのイギリスがEU離脱を表明。それに続けと、EU加盟各国で反EUの政治勢力が勢いを増しており、ヨーロッパ統合は過渡期を迎えている。だが、EUが解体すれば、中小規模の加盟諸国は別々に政治経済の諸問題や地球規模の課題に取り組む必要がある。各国政府が有効な対応策を講じられないとき、今(不当かつ不正確に)EUへ向けられている怒りの矛先が隣国へ向けられ、戦争の時代に戻ってしまう可能性すらある。EUが課題を抱えているのは事実だが、必要なのは解体ではなく、改革であろう。イギリスもEUからの離脱後、さまざまな権限を取り戻すだろうが、大きなコストやリスクを伴うことにもなる。例えば、EUで共通の通商政策を享受してきたイギリスは、長い間、自由貿易協定を巡る交渉などに関する権限をEUに移譲してきた。今後、それらを一から独自で立案する必要があり、そのために有為の人材を集めることは容易ではない。

参考文献 *https://www.waseda.jp/inst/weekly/academics/2017/04/21/24210/ 〈国際政治学〉ヨーロッパ統合の意義と イギリスのEU離脱問題 *http://www.esri.go.jp/jp/seisaku_interview/interview2015_08.html 欧州経済の現状と課題|内閣府 経済社会総合研究所 *『20世紀ヨーロッパ社会経済史』浅井淳平(1991) 名古屋大学出版会 *『21世紀ヨーロッパ学:伝統的イメージを検証する』支倉寿子・押村高(2002) ミネルヴァ書房


  人間科学大事典

    ---50音の分類リンク---
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                  
                          
                  
          

  構成