リテラシー
出典: Jinkawiki
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近年のリテラシー (literacy)
OECDが2000年から3年ごとに実施している国際調査(PISA)では、具体的な調査分野として「読解リテラシー」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を設けた。日本では、PISAのリテラシーの特徴を「応用力」「活用力」「比較的な読み(文章を良く理解した上で、文章が良いか悪いかをよく検討して評価する」などをキーワードとする傾向にある。近年、学校教育で身につける力とはを考える際、リテラシーという言葉に注目が集まっている。
リテラシーの起源
「文学(literature)」から派生した「literate」という言葉がリテラシーのもととなった。15世紀、イギリスで「litarate」という言葉が登場している。当時、シェークスピアの戯曲を読んで味わう事ができるほどの高い教養(優雅な教養)を身につけている状態のことを意味していた。
1883年、オックスフォード英字辞書(OED)において、リテラシーという言葉が初めて使われた。そして、マサチューセッツ州教育委員会が発行した雑誌において、リテラシーという言葉は、公教育に通じて子どもたちに共通に育成される読み書き能力を意味していた。公教育が普及していく1880年代、多くの子どもたちが学校に通うようになる。つまり、子どもたちが共通に学ぶ教育内容に関連した概念として用いられた。
1920〜30年代、アメリカ合衆国でのニューディール政策では、多くの失業青年に職業訓練が行われた。初歩的なレベルの読み書き能力を身につけていても、日頃において十分に活用されていないことから、リテラシーの獲得は小学校就学3年間以上を目安とされた。その後、1947年、国勢調査局により、4〜5年の就学水準、1952年のは6年間の就学へと規定された。さらに移行が続き、1970年代末では高等学校卒業程度に変更され、リテラシーの基準は現在に至る。
国際調査PISAでの調査分野としてリテラシー概念に注目される以前、リテラシーという言葉は、一般的に「文字の読み書き能力」「識字能力」と訳され、書き言葉、文字を媒介とする書字文化における意思疎通の能力として理解されてきた。対概念は、話し言葉、口承文化である。 読み書き能力としてのリテラシーを習得を判断するための基準に必ずしも統一の規定はない。
機械的リテラシー
音声と文字の関係の認識や簡単な文章の音読などの初歩的なレベルに限らず、日常生活の中で世読み書き能力を生かせられるかという意味内容を含んだ概念である。 アメリカ合衆国のグレイ(Gray.w)は機械的リテラシーを「機械的リテラシーを身につけた人とは、その人の所属する文化あるいは集団において読み書き能力がごく普通に想定されているようなあらゆる活動を効果的に取り組むことができる読み書きの知識と技能をもっている人を指す」と定義づけた。日常生活での実用性の強調ではなく、リテラシーの習得が学習者の自立と社会参加に通ずるものとして、機械的リテラシーは重要な役目を果たすとされた。
文化的リテラシー
関係のある言語において読み書きのできる人々が暗黙のうちに共有している文化的な知識内容に焦点を当てた概念である。アメリカ合衆国のハッシュ(Hirsch.E.D.Jr.)は、読み書き文化において共有されている知識内容を身につける重要性を示し、リテラシー教育において共通性を強調されるようになった。国民性、国家レベルでの共通性を想定した。 一方、共通性に偏り、文化的な多様性・複雑性が見過ごされているのではないか、子どもたちの有する様々な文化的背景を無視して共通知識を押し付けようとしてないかといった批判的見解もなされた。
批判的リテラシー
現在維持と支配のための識字に傾くリテラシー計画に反抗するものとされたペルセポリス宣言(1975年)が、リテラシー(識字)の批判的側面に焦点を当てた契機を作り出した。宣言では、既存の社会構造に潜む矛盾を批判的に読み解くこと、そうした矛盾を抱える社会を変革していくきっかけがリテラシーにあると示された。フレイレ(Freire)によると、抑圧された者が既存社会に批判的に介入することで可能しする契機を「意識化」と呼び、リテラシー教育に見いだした。
PISAのリテラシー
PISAにおけるリテラシーの定義とは「『機会的』『生存のため」と呼ばれてきた70年代の狭いリテラシーの概念を超え、より広い社会的コンテクストにおいて参加するための重要な役割を果たすもの」である。 PISAでは、テクストの内容と形式から「批判的」に読み解くことを重視されている。例えば、読解力リテラシーの批判的側面には、①情報の取り出し②テキストの解釈③熟考と評価の3つに大きく分けられる。テキストの形式は有効かどうかの判断が含まれ、「批判的」に読み解くことをねらいとしていると分かる。PISAのリテラシーは、日常生活の中で生きてはたらく効果的なものになるという機会的リテラシー論の提起を引き継ぎながら、既存社会への単純な適応に陥るのではなく、「批判的な位置」も含むものとして細かく構想されている。
日本におけるPISAのリテラシー概念では、「応用力」「活用力」「批判的な読み」というキーワードが使われ、同時に社会の在り方を問い直す視点を取り入れていくことが求められている。インドの経済学者セン(Sen.A)は、リテラシーには、様々な「機能(人々が生活の中である状態になったり、何かをすること」があることを考慮し、機械的と批判的の両側面が統一された在り方を探る必要があるとした。様々な機能からどれを選び、どれに重きをおくか選択すること、つまり個人がどのような生活を選択できるかという自由にかかわる「潜在能力」というキーワードも示唆した。潜在能力は、「生き方の幅」を広げるという発想に言い換えられ、日常生活における様々な場面で読み書き能力を発揮し、変革することから、機会的と批判的側面を結ぶことにつながる。学校教育において、子どもたち一人ひとりの生き方の幅を広げることを可能としたリテラシーの在り方とは何か、今後の見通し、再検討が考えられている。
参考文献
<新しい能力>は教育を変えるかー学力・リテラシー・コンピテンシー 編著/松下佳代(株式会社 ミネルウァ書房)
(sarasa)