ロシアからの原油輸入
出典: Jinkawiki
ロシアからの原油輸入
北東ロシア市場をロシアがどのように認識しているかということだが、2000年の例を見ると、ロシアからの原油の積み出し能力は東へはなかった。ところが、2010年にはアジア向けにおおざっぱに言って100万バレルの新しい輸出能力が付け加わった。この東方シフトは、2004年のプーチン大統領の2期目の就任演説で明確に政策としてうたっており、そのためのパイプライン・インフラを造るのだと言っている。それが先ほど言った東アジア・太平洋(ISPO)パイプラインである。そしてそれを、宣言した通り8年で実行に移した。 この計画は2001年のトランスネフチの計画がおおもとにある。一方、2001年ロシアは中国向けのルートで江沢民国家主席と基本合意をしている。そして、2003年1月7日、小泉総理がロシアへ行った時も、「日本も太平洋向けルートを支持します」と宣言した。太平洋に先に来るのか、中国に先に来るのかということで非常に話題になった。結局、中国の方に行くよりも前に、鉄道も利用しながら、2009年12月に太平洋向けにナホトカに近いコジミノ・ターミナルからえんにゅ輸出が開始された。全線開通は2012年の10月。 エネルギーの3原則として、Security,Flexibility,Economicsの3つがある。セキュリティという観点から言うと、ESPO原油はホルムズ、マラッカの両海峡を通れないため、圧倒的に安全なのは事実である。次にフレキシビリティということで、コジミノから日本市場までだいたい3日で来る。中東からはだいたい20日かかるため、例えば急に寒くなった、灯油の供給を急ぎたい、精製を増やしたいなど、気候などによる短期の市場変動にも対応が容易である。それから、中東からだと買ってしまってから3週間原油は船の中で寝ているわけである。3日で来るならば、すぐ精製して市場に出して利益になる。購入してすぐに製品化できるということは、在庫コストを圧縮する上で大変有利だと、会計上言える。2週間、3週間かかるのは、相当負担が大きい。 それから中東原油は、仕向け地条項、ディスティネーション・クローズというが、ここだけにしか売ってはいけない、転売してはいけないという厳しい規定がある。ところがESPO原油は転売が可能なので、例えばトレーダー経由で買うなど、フレキシブルな対応が可能である。おって、セキュリティとフレキシビリティでは、断トツに良い。 これで経済性も良ければ言うことはないのだが、実は経済性は良いとはいえない。低硫黄で中質原油なので、本来値段も割高で、ドバイ原油よりも高い。なので経済性は悪い。悪いけれども売れているということは、それだけ人気があるということだ。やはり、日本の近距離で、フレキシブルな原油、そしてエネルギー安全保障上重要な要素がある。こればかり買ってしまっては割高となって石油会社としてあ困るが、1割程度このような原油を持っておくことは、安定的な操業にとっては非常に良いことである。 ロシアからの原油は、2006年にはサハリンから入るようになり、日本の輸入量の1%だった2010年はESPO原油がたくさん入ってくるようになって7%まで拡大した。2011年は東日本大震災で5%くらいに縮んでしまった。2013年は、ロシアの原油は7%になった。2016年には、ESPOパイプライン自体が拡大しているので、10%近くまでいく可能性がある。日本での中東の原油のシェアは2006年で89%である。「中東原油の依存度を減らせ」と口では簡単に言えるけれども、では、具体的にどうするのか、今取りうる手段としては、ロシアの原油を増やすことが一番現実性が高い。近いうち、中東原油の依存度を8割近くまで低下させることができるだろう。このよう形で、日本の周辺では石油のパイプラインが非常に機能するようになって、エネルギー安全保障上もいい形になってきた。
参考文献
塩川伸明・池田嘉郎編(2016)東大塾 社会人のための現代ロシア講義 東京大学出版会 河原祐馬・島田幸典・玉田芳史編(2011)移民と政治 ナショナル・ポピュリズムの国際比較 昭和堂