ロバート・オーウェン4

出典: Jinkawiki

産業革命が引き起こした社会的問題と正面から取り組み、教育を通じて労働者階級を救済し、新しい社会を建設しようとしたのが、イギリスのロバート・オーウェンである。彼は、年若くしてスコットランドの片田舎のニュー・ラナークで、紡績工場の経営にあたることになった。彼が工場を経営してみると、無知、怠惰、不道徳の中にいる年少労働者に直面したのである。そこで、次のような改善策をたてた。

・自分の工場では、少年の酷使をやめる

・9歳以下の子どもは使わない

・救貧院や孤児院や貧民保護司のところから少年労働者の受け入れをやめる

・労働者の労働条件や生活条件を改善する

などである。1816年1月に工場に併設された「性格形成学院」は、労働者の4歳以下の子どもたちのための幼児学校と5歳以上10歳以下までの子どもたちのための初等学校からなっている教育機関である。オーウェンはここを足場にして、輝かしい教育活動を展開したのである。ニュー・ラナークは、当時における労働者とその子どもの天国と言われ、全世界から数万にものぼる訪問者を持つことになるが、それはなぜか。そのカギは、オーウェンの教育思想の中にみることができる。第一に、理想社会をつくり出すためには人類の無知を追放しなくてはならない、そのためには、教育が必要である、と説いた。オーウェンは、人々が健全で幸福に生活できる社会をつくるために教育が必要である、と考えていたということである。教育の力に理想社会実現の夢を賭けていたのである。第二に、人間は環境によってつくりあげられる、と主張した。オーウェンは次のように言っている。

「適当な手段を用いれば、どんな一般的性格でも最善のものから、最悪のものまで、最も無智なものから最も知識あるものまで、どんな社会にも広く世界にでも、附与することができる。しかも、その手段の大部分は、世事に影響力を持っている人たちが意のままにし、支配しているところのものである。」

すなわち、人間の性格は、例外なく環境の被造物である、というのである。このことから、必然的に次のようなことがいえる。第三の主張は、人間が環境の産物であるならば、人間の性格の正しい形成のためには、人間を良好な環境の下に置かなければならないということである。しかも、オーウェンにすれば、先の引用にもあるように、良好な性格を形成するための手段、つまり良好な環境をつくることは、人間が「意のままにし、支配している」のである。第四に、教育は、人間が幼少のとき、最も効率的である、と主張した。今日、幼児教育の重要性がしきりに説かれている。日本でも古くから「三つ子の魂百まで」ということわざがある。これは、幼少期の教育の仕方がその子どもの一生を左右するという意味であろうが、一面では、幼少期の教育が最も効果的であるということを意味している。第五に、当時の学校教育が貧困労働者階級の子どもたちに当然教えなければならない事柄以外のことを教えるのを批判するとともに、「子供たちには、まず、事実の知識を教えるべきである」と主張した。すなわち、生活にとって最も有用かつ必要な事実を教えるべきである、といったのである。第六に、教授方法の改善を主張した。すなわち、教授にあたって、教師は「子どもたちの心が納得できるような明瞭な説明」をすべきであり、またこの説明は、「子どもが知的能力を獲得するにつれて、次第に詳細にしてゆくべきである」といっている。第七に、公教育制度の必要性を主張した。「国が教育の問題を取り上げ、慈善団体や個人に任せておくのではなく、国民教育制度を作り上げるべきである。そしてまた政府は、この国民の教育を担当すべき教育者を養成する教員養成所の成立が必要である。」オーウェンは、このような方針を実行にうつす一方、他方では、少年労働を制限する工場法制定の運動に活躍した。環境が人間形成に大きな影響を与えるという彼の環境論は、真理の一面を正しくついている。ヒューマニズムに貫かれた彼の教育思想は、やがて社会主義の教育思想家たちに受け継がれていった。


参考文献 『西洋教育思想小史』(2006)  晃洋書房  中谷 かおる・小林 靖子・野口 祐子 


  人間科学大事典

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