ワークシェアリング 3
出典: Jinkawiki
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ワークシェアリング
一つの仕事を多くの人数で分け合うという考え方や政策のことである。一人あたりの労働時間を短くし、大人数で少しずつ働くことで、雇用確保や失業対策を目的に実施されることが多い。雇用人数はそのままで労働時間を減らすことで賃金をカットし、リストラを回避するための手段にもなる。 今までは、不況になって人件費を削減しようというと、リストラによって人員削減をしてきたが、人員削減をせずに、各従業員の仕事を減らすことによって賃金を削減すれば、労務費の削減になるという発想である。
また、定年後の雇用対策や、働き方の多様化としての一つとして導入されるケースもある。日本では厚生労働省や日経連、連合などが導入に向けて話し合いを行い、2002年に「ワークシェアリングについての基本的な考え方」について三者が合意。実施のための環境整備などに向けて具体的にすすめている。世界では、ドイツやオランダ、フランスなどで導入が早く、すでに失業率低下に効果をあらわしつつある地域もある。
一般的なタイプ分け
①緊急避難型 当面の緊急措置として、人員整理を回避するため一人当たりの労働時間を短縮して従業員間で仕事を分かち合う。
②中高年対策型 より中、長期的に、①の措置を中高年層を対象に実施する。
③雇用創出型 法律または産業規模の労働協約によって労働時間を広範に一律に短縮し、失業者に新たな雇用機会を提供する。
④他行就業促進型 勤務の形態を多様化することによって、女性や高齢者をはじめとするより多くの人が働きやすいようにする。
ワークシェアリングの意義
ワークシェアリングには、(1)雇用過剰感がある場合において雇用を維持・創出し、雇用不安を解消すること、(2)これまで様々な制約により就業機会を奪われていた労働者に就業機会を提供すると同時に、多様な働き方を認めることにより労働者の所得-余暇-労働を総合した効用を高めること、などの効果があると考えられる。
ワークシェアリング導入における課題
(1) 労使の合意形成の必要性
我が国における終身雇用制を軸とした日本的雇用慣行は、徐々に見直しの動きが広がりつつあり、労使間で雇用管理のあり方等についての合意形成が必要となっている。 こうした中、ワークシェアリングの導入を検討する場合においては、負担の分かち合いが必要であり、その目的・効果について労使で十分な議論を尽くし、共通認識に立つことが重要である。
(2) 労働生産性の維持・向上
ワークシェアリングが導入された場合、業務の引継等の問題から労働生産性が低下する場合も考えられるが、こうした労働生産性低下をできるだけ解消するよう業務手法等の見直しを行っていく必要がある。
(3) 時間を考慮した賃金設定に対する検討と理解
ワークシェアリングがその類型に係らず、これまでの労働時間と賃金の組み合わせを変化させるものである以上、導入に当たっては、労働時間と賃金との関係を明確にする必要がある。 しかし、我が国の場合、多くの企業が月給制を採るなど、必ずしも時間を考慮した賃金設定がなされていないのが実状であり、ワークシェアリングを導入する場合には、労使において時間を考慮した賃金設定のあり方について検討を行い、理解を深めることが必要である。
(4) 職種による差の考慮
定型的な業務を繰り返すような職種(生産・現業職、事務職等)では、時間を考慮した賃金の設定が比較的容易であるが、創造性や判断力が重視される職種(専門・技術・研究職、管理職等)においては、時間を考慮した賃金設定は困難であり、個別の業績を基準にするなど他の方法を検討する必要がある。 時間を考慮した賃金設定の検討に当たっては、こうした職種による差を十分考慮する必要がある。
(5) パートタイムとフルタイムの処遇格差の解消
ワークシェアリング導入の結果、生み出されるパートタイム労働者については、勤務時間数が異なるのみでフルタイム労働者との間には職務内容に違いはない。このため処遇の決定方式や水準について両者の間のバランスをとることが必要である。 また、現在、パートタイム労働者については、一定以下の短時間勤務となる場合には社会保険等の取扱いが異なることから、このような制度についての検討も重要となる。
オランダにおけるワークシェアリング
ヨーロッパにおけるワークシェアリングの歴史は1980年代に遡る。なかでも、経済改革に成功したオランダの事例が有名である。オランダで推進されたワークシェアリングは、短時間の雇用を生み出す雇用創出型が基本である。これは、82年に政労使で締結された「ワッセナー合意」に基づいて推進された。この合意により、労働組合は賃金抑制に協力し、企業は雇用確保や時短に努力する一方、実質雇用者所得の減少を緩和するため政府は減税等を実施した。これらの取組が効果 を上げ、「オランダ病」と形容された経済危機を克服することができた。その後、92年に政労使の合意が今後も維持されることについて再度合意がなされた。こうした結果、オランダの失業率は、83年の11.9%が2001年には2.7%にまで低下し、ワークシェアリングが大きな成果をもたらした代表例として位置付けられている。
ドイツ
ドイツでは、80年代から産業別の労使協約によるワークシェアリングが進められた。金属産業や自動車メーカーに例がみられ、時短の導入により失業者を出さないことが 主目的であった。業績悪化に対処する緊急避難策と位置付けられる。他方、近年では、パートタイム労働者や有期契約雇用者等の一層の拡大により雇用を創出することを目指した法整備がなされ、パートタイム労働及び有期労働契約法が2001年1月から施行された。これは、パートタイム労働者に対する差別的取扱いを原則として禁止した85年就業促進法の規を拡充したものであり、①同一労働同一賃金の取扱いを初めて明記、②労働協約等によっても差別禁止規定を免除できないこと、③パートタイム労働者とフルタイム労働者との間の相互転換を容易にすること、④有期契約雇用者に対する差別禁止等を定めた。
フランス
フランスでは、82年の労働法改正により法定労働時間が週40時間から39時間へ短縮されたが、短縮時間数が少ないことなどから雇用の改善にはあまり効果がなかった。その後、悪化の続く雇用情勢に対処すべく98年6月に労働時間短縮に関する指導・奨励法(通称「オブリ法」)・第一次法が成立、また2000年1月にオブリ法・第二次法が成立した。主な特徴は、①法定労働時間を週35時間とすること、②早期実施へのインセンティブとして企業に対して社会保障負担の時限的な軽減措置がとられたこと、③時短の具体的実施方法等は労使間に委ねられていることがある。これは政府主導による時短を通じた雇用創出策と考えられる。
参考文献
根本孝 著 「ワークシェアリング オランダウェイに学ぶ日本型雇用革命」2002年 ビジネス社
熊沢誠 著 「リストラとワークシェアリング」 2003年 岩波書店
脇坂明 著 「日本型ワークシェアリング」2002年 PHP研究所
鎌田とし子 著 「男女共生社会のワークシェアリング ~労働と生活の社会学~」1995年 サイエンス社