公害防止と環境保全

出典: Jinkawiki

公害の激化にともない、公害反対の世論や住民運動が高まった。そのため、企業は公害防止に力を入れるようになり、政府や地方自治体も公害対策に乗り出すようになった。しかし、新たな公害問題も多発し、環境政策の強化と生活様式の見直しが迫られている。

目次

公害の規制

1、公害立法

1976年に制定された公害対策基本法は、公害反対の世論を背景に、1970年いわゆる“公害国会”で改正され、産業優先という批判のあった「経済調和条項」は削除された。公害関係14法(大気汚染防止法・水質汚濁防止法など)も整備された。1973年には公害健康被害補償法が定められ、1993年には環境基本法が制定された。また、2000年には循環系社会形成推進基本法も成立し、関連して家電・包装容器・建設・食品・自動車の5つのリサイクル法が改正または新たに制定された。

  • 環境基本法

  窒素酸化物による大気汚染や生活排水による内海の汚濁など、都市・生活型公害や増え続ける廃棄物、さらに世界環境問題に対応するには、公害対策基本法では不十分となった。そこで、環境基本法は、環境に負担をかけない「持続的発展」が可能な社会を作ることを理念として、環境基本計画の策定や環境審査議会の設置を定めている。1992年の「地球サミット」で宣伝された環境アセスメント(大規模な開発が、環境におよぼす影響を事前に調査し、その可否を審査する制度)については、日本でも1997年に環境アセスメント法が成立した。

2、地方公共団体の公害対策

 地方公共団体でも公害防止条例が制定され、1972年には全都道府県で施行されるようになった。また企業との間で公害防止協定を結ぶ所も増え、一部の地方(北海道・神奈川県東京都など)では環境アセスメントが条例化されている。

3、公害行政

 1971年に環境庁(2001年より環境省)がもうけられ、公害行政が一本化され、公害規制を強めるようになった。

  • 環境基準

 環境上の許容度を示す。だが、これは公害発生源の個々の企業と直接に結び付かないので、排出基準が必要になる。

  • 排出基準

 工場から出る排煙や排水に含まれる有機物資の濃度を規制するもので、ppm方式といわれる。しかし、濃度規制では汚染物質の絶対量は減らず、経済成長とともに増えてしまう。有害の廃液でも、水道の水でうめれば基準をパスしてしまうからである。したがって、公害をへらすには汚染物質の絶対量をへらす総量規制も必要で、一部の地域で行われている。

4、汚染者負担の原則(ppp)

 公害防除の費用は、すべて汚染の発生源である企業が負担しなければならないという原則で、1972年にOECD環境委員会で採択され、わが国でも受け入れられるようになった。また、企業が排出基準などを守り過失がなくても、公害がおこればその賠償責任を負う無過失責任制度が導入された。

住民運動と公害訴訟

1、住民運動の意義

 高度成長の展開とともに公害がひどくなったため、1960年代の後半から公害反対の国民世論が高まり、住民運動も激しく行われるようになった。公害を規制する立法や行政がおそまきながら進んだのも、これからの力によるところが大きい。

2、公害訴訟の展開

 初期の運動は、四大公害裁判に見られるように、公害の直接の被害者たちが訴訟をおこすという形をとった。これらの判決が、いずれも原告側の勝訴に終わったことは、加害企業やそれを放置してきた国の責任が明らかにされたという点で極めて大きな意義をもっている。さらにこのほか、新幹線や空港騒音などに対する住民訴訟が多発し、また、リサイクルや自然保護運動などの多様なかたちで市民運動も活発化している。

公害の新たな動向

 近年の新たな公害として、プラスチック類をゴミ焼却炉などで焼却する際などに発生しやすい猛毒ダイオキシンの被害がある。その発がん性や、遺伝子異常などの生物の生殖活動全般に影響を及ぼす環境ホルモンとして毒性が問題となっている。さらにアスベスト(石綿)による健康被害や次のような新しい問題も生じ、環境保全の重要性が以前にもまして高まっている。

  • ハイテク公害

 ハイテク汚染、IT汚染。高度先端技術分野で、これまでクリーンであるとみられていた半導体産業の廃液による地下水汚染など。

  • 開発公害

 空港建設や、ゴルフ場・スキー場などのリゾート開発に伴う自然破壊、都市再開発による都市景観の破壊など。

  • 公害輸出

 公害の発生しやすい工場を発展途上国に移転させたり、郊外援助に伴う大規模開発で現地の自然を破壊したりするなど。

これからの環境保全について

  • 環境保全へ期待される事柄

 (1)技術革新により環境技術が発達し、省エネ設計の製品の普及や、リサイクルや廃棄物処理を含む装置産業や静脈産業が成長する。このような環境関連産業の発展により経済の成長が期待できる。  (2)IT革命が進み、ネットショッピング、在宅勤務、eラーニングなどが普及して、物流効率が向上し、移動と輸送のエネルギーが減少。 (3)ロードプライシングや都市部への自動車乗り入れ規制、自転車都市などが広がる。また路面電車などの公共交通機関が復活する。 (4)ワークシェアリングによる労働時間の短縮により、家庭や地域のコミュニティ活動に従事する時間が増え、ゴミの分別などのさまざまな環境への取り組みが行いやすくなる。

  • 考えられる問題点

   大量生産、大量消費・大量廃棄という形で発展してきた現代の社会では、環境重視の政策は「便利さ」と「快適さ」を抑制することへの抵抗感と、経済発展を妨げるのではないかという不安が大きい。自動車を例にとれば、素材から完成品にいたる巨大な総合産業であり、物流などの自動車関連のサービス産業に従事している人も多い。雇用や景気への影響を考えた場合に慎重にならざるを得ない面がある。    また、汚染者負担の原則(PPP)にもとづき、製品のリサイクル費用や包装材の処理費用を生産者に負担させる試みは、ドイツなどで実施され、ゴミの減量化に一定の効果をあげている。しかし、その費用の分だけ製品価格が上がり、国際的な価格競争では不利になりがちである。また最近、先進国の企業が発展途上国に工場を移転するケースがあるが、それは労働賃金の安さという要素とともに、途上国の多くが大気汚染や粋質汚濁、廃棄物に対する規制がないか、穏やかであることも大きな要素であるといわれている。経済活動がグローバル化した現在、一つの国だけで独自の環境政策を行うには難しい点があると共に、結果として環境問題が先進国から途上国へ輸出され、広がっていくという新たな問題も生じている。

参考文献

  • 維持可能な社会に向かって:公害は終わっていない 宮本憲一

  人間科学大事典

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