公立高校体育持久走死亡事故事件

出典: Jinkawiki

1.事実の概要

 昭和44年1月9日、大阪府立T高校で、一年生のH子が体育の授業時間中に倒れ、急性心不全で死亡する事故が起きた。三学期の指導種目である持久走の途中であった。準備運動をし、先生からの注意を受けた後、運動場を二、三週し、校外に出てわずか20メートルの路上で、H子は倒れたのである。その日の計画では、近くの公園を回って帰ってくる全長1300メートルのコースを走ることになっていた。ところで、H子は、T高校入学後まもなくのころ、心臓の精密検査を受け、心肥大と診断されていた。医師からは、注意観察を必要とし、過激な運動は控えるようにいわれていた。しかし、外見上は全くの健康体であり、H子自身、自覚症状もなかった、むしろ、H子は体育に積極的であり、その成績もよかったほどであった。一週間にいつかくらいはクラブ活動のバレー部で練習をし、夏休みには合宿訓練にも参加していた。そんなH子が、まさに「突然死」した。そこで、H子の両親は、H子に心臓疾患があるにもかかわらず、適切な指導を怠り持久走をさせたのは、学級担任、体育担当、バレー部顧問の教育等の手落ちだとして、大阪府に対し約100万円の損害賠償を請求したのである。

2.判決の要旨

 心肥大については医学的な解明がまだなされておらず、原因は不明で、先天性のものか後天性のもにかもわからず、その治療方法もわからないとされている。自覚症状もない。したがって、その発見も難しく、死体解剖の結果、はじめて心肥大であることがわかる例もある。このような原因不明の心肥大による死亡事故は、運動中だけでなく、入浴中、通学途中、睡眠中にもおこり、運動と死亡の因果関係の有無・程度についても医学上不明とされている。また、過激な運動を続けると心肥大は増大する恐れがあるとされている。このような観点から、H子は注意観察が必要とされたが、それは管理指導上すべての運動を禁止したものではない。H子の疾患がこのようなものである以上、もし仮に、学級担任、体育担当、バレー部顧問の教員等が、それぞれ適切な指導を怠ったとしても、本件死亡事故の発生と教員たちの指導(持久走をさせること)との間には、「相当因果関係」は認められず、教員たちに過失はなかった。よって、原告(H子の両親)の請求を棄却するとした(本件は、控訴さらに上告されたが、いずれも原告の請求を棄却した。昭和52・1・28大阪高裁判決、昭和54・7・31歳高裁判決)。なお、判決では、H子が医師から「過激な運動は自分から差し控え、もし自覚症状がでたときには、すぐに医師に相談するように」との注意を受けていたこと、また、一般的に高校一年生であれば、是非の弁別能力はかなり高く、保健衛生の知識も相当持っていると考えられるので、H子自身が体育の授業の際に、自らの健康管理をすることが期待できたはずであると述べられている。

考察

 今回の事件に限って言えば、H子が高校生であるとはいえ、また心肥大が自覚症状のないものである以上、H子自身が自分の身体の状況を判断し、自ら見学を申し出るべきであったという見解は気の毒であるとの見方もできる。誰しもが予見できなかった事故であるとは一言では言いきれないものであるともみれる。


        参考引用:『教育判例読本』教育開発研究所    http://members.at.infoseek.co.jp/TMiyazaki/


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