出生前診断

出典: Jinkawiki

目次

1.出生前診断とは

出生前診断とは、胎児の病気や奇形の有無を診断することである。広い意味では、胎児の子宮での状態を診ることを指す。その目的は、胎児に治療や投薬を行ったり、出生後の治療の準備をすること。また分娩方法を決めること。妊娠を継続するか否かに関する情報をカップルに提供することが挙げられる。


2.スクリーニング検査

何らかの異常を持っている確率が高いかどうかを調べる検査。


①超音波検査

人の耳には聞こえない高周波音波を利用して胎児を画像として映し出しレントゲンを撮らずに胎児を診察する検査。お腹の上から、あるいは膣からプローブという装置をあてる。胎児にぶつかって跳ね返ってきた音波を記録し、それを映像として映し出す。

・妊娠週数。

・胎児の首の後ろにリンパ液がたまっていないか。(頸部浮腫)

・胎児の鼻の骨。(ない場合、ダウン症のリスクが高い)

・胎児の数。

・胎児の性別。

・羊水の量。

・分娩前に逆子でないか、胎児や臍帯が不自然な位置にないか。

・子宮頸管の変化(早産の恐れがないか)

などをこの検査で調べる。 先天異常の診断では偽陰性反応(実際は問題が有るのに無いように見える)や偽陽性反応(実際は問題が無いのに有るように見える)が出る恐れがあるが、リスクのない検査法として認められている。


②トリプルマーカー検査

母親の血液から、胎児の体内で生成される3つのホルモンの濃度を測定し、その値から判断される。 二分脊椎(脊椎の形成不全)、神経管欠損症、ダウン症、染色体異常のリスクが高いかどうかを検査する。 先天異常を診断することが出来ない上、誤って陽性と出る確率が非常に高いという問題点がある。日本では最近行われなくなってきている。


3.診断検査

妊娠中に診断のために行われる検査。


①羊水検査

羊水中の胎児細胞や化学物質、微生物を調べ、胎児の遺伝子構造や健康状態、成長の度合いなどを調べる。超音波で胎児と胎盤の位置を確認し、腹部に長い針を刺して少量の羊水を採取する。 羊水検査をすると99%以上の精度でダウン症かどうかを診断でき、その他ハンター症候群、血友病、テイ・サックス病、ハンチントン病、トキソプラズマ病、リンゴ病などの疑いがある場合この検査を行う。 検査後、軽い腹痛を感じることが多い。微量の出血や羊水が漏れることもある。また、感染症やその他の合併症を起こし、流産する危険性もある。


②絨毛検査

胎児由来の組織である絨毛を採取し、遺伝子構造を完全に明らかにする。超音波画像で確認しながらチューブで細胞のサンプルを吸引するか、胎盤に針を刺して細胞のサンプルを採取する。 絨毛検査をすると、遺伝子や染色体の異常を原因とする3800あまりの病気を全て発見できると考えられている。現在ではテイ・サックス病やダウン症などを発見するために限って行われている。神経管欠損症や他の先天性奇形を見つけることはできない。 痛みは全くないものの、多少の不快感を伴う。検査後に出血したり、肉体的・精神的な疲労を感じることもある。羊水検査よりも若干危険性が高く、流産のリスクがやや大きくなる可能性がある。また、四肢奇形との関連性が指摘されるケースもまれにある。


③胎児採血

胎盤表面の血管、臍帯血管の中央部、胎児の肝臓内の血管のいずれかから採血する。  採血をすると、特定の病気、胎児の貧血の有無や血液疾患の有無を診断することができる。たとえば、胎児が風疹にかかっているかどうかは血液の風疹抗体を検査する。染色体異常の有無を調べるには、血液中の細胞を培養し、染色体検査をして調べる。  絨毛検査や羊水検査に比べて誤診は起こりづらい。しかし胎児血ではなく母体血で検査をしてしまったり、技術的に非常に難しいのも現状である。検査の副作用として は、流産、子宮内胎児死亡、子宮内感染(子宮内に菌が入って熱がでたりする)、破水(羊水が腟から漏れる状態)などがある。この検査で、胎児採血検査をうけた50人~100人に1人の確率で妊娠がだめになってしまう。


4.出生前診断の問題点

①出生前診断の倫理的問題

普通の診断では診断の対象者が診断結果を知り、それを自分の健康管理に生かす権利がある。しかし出生前診断の場合、診断対象である胎児に異常があった場合、しばしば人工妊娠中絶が選択される。明らかに胎児の不幸につながる情報を妊婦は無条件で入手する権利を持っているのか、そしてどこまでが妊婦の「知る権利」に含まれるかについての議論はまだ不十分である。  また社会的にみると、出生前診断の結果おこなわれる人工妊娠中絶は「障害者の生きる権利」を奪うことにならないのだろうか、優生学とは無縁であるといえるのであろうか。というような問題もある。


②出生前診断の技術的問題

技術的な問題としては、3にも書いたとおり数多くの副作用や、誤診などがある。また、現在多くの検査が検査企業に任されるようになった。日本の多くの検査企業の精度管理は十分に行われているが、もし十分でない検査企業にサンプルを送られ、分析結果が間違っていたとしても医師はその結果に疑問を挟む余地がないのである。


③人工妊娠中絶の倫理的問題

人工妊娠中絶を受けると、麻酔の事故や子宮穿孔、子宮内感染、術後の不妊などの身体的な合併症のほか、心にも傷が残ることがある。心の傷をできるだけ小さくするには、自分で考え自分自身で最善と思う方向を判断する「自己決定」をすることである。もし誰か別の人が決めた場合、経過がうまくいかないときに責任を転嫁するだけでなく、自分で決めなかったという罪悪感を加重して持つことになる。


5.参考文献

・H・マーコフ、A・アイゼンバーグ、S・ハゼウェイ 著 森田由美 訳(2004)『すべてがわかる 妊娠と出産の本』株式会社アスペクト439pp

・佐藤孝道(1999)『出生前診断 いのちの品質管理への警鐘』有斐閣273pp

・「胎児生命科学センター【出征前診断とは】」http://www.flsc.jp/checkup/index.html

・「産婦人科の診察と検査」http://www.toranomon.gr.jp/site/htdocs/sanfujinka/noflame/gyneexam4.html


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