割れ窓理論
出典: Jinkawiki
割れ窓理論
アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案した、軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとする環境犯罪学上の理論。「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」との考え方からこの名がある。ブロークン・ウィンドウ理論、破れ窓理論、壊れ窓理論ともいう。 社会安全政策に関する理論で、建物等の私有な財産を単に個人主義的視点からではなく、地域社会全体にかかわる存在として位置付ける共同体的視点から捉えるべきであるという立場に立つ理論である。 例えば、ビルの窓を割れたままにしておくことは、そのビルの管理が不充分であることを示しており、管理が不充分であれば、そこが犯罪の温床になりやすく、それによって犯罪がビルから地域社会に拡大していき、他のビルの窓も割られるようになり、それが原因となって社会の崩壊現象を招くということを意味している。
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実験例
スタンフォード大学のフィリップ・ジンバルト教授が行った実験によると、普通の車を市街地に一週間放置しても何も起きなかったのだが、次に同じ車で、窓ガラスを一枚だけ割ってそのまま市街地に一週間放置しておくと、他の割れていない窓も割られ、金銭になるであろう部品もほぼ全て盗まれたという結果であった。 これは犯罪学によく紹介される内容で、以下のステップで導き出された結果と考えられている。
1 窓が割れているまま放置されている。
2 誰も関心、管理していない状態に見えるため、何をしてもよいと感じはじめ、一部の人のポイ捨て等がその周りに始まる。
3 その状態を見て、更に「何をしても良い」という雰囲気が更に大きくなり、何でもやっていいという雰囲気が増大し成長する。
人間は、一枚目の割れていない窓を割ることに心理的な抵抗を強く感じるが、割れている窓の隣があれば、その隣を割ることに心理的抵抗感が弱くなるというのである。
対策
「割れ窓理論」から考えられた防犯対策は以下のようなものである。
1 一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まる。(煙草のポイ捨て、ごみの分類等)
2 警察によるパトロールや交通違反の取り締まりを強化する。
3 地域住民は、住民として地域の安全は自分たちで作り出すという当事者意識をもって警察職員に協力し、秩序の維持に努力する。
4 見通しの悪い場所を無くす。
これにより治安を回復させることができると考えられる。
適用例
ニューヨーク市は1980年代からアメリカ有数の犯罪多発都市となっていたが、1994年に検事出身のルドルフ・ジュリアーニが治安回復を公約に市長に当選すると「家族連れにも安心な街にする」と宣言し、この理論を応用しての治安対策に乗り出した。ニューヨーク市警の協力によって、地下鉄などの落書き、空き缶の投げ捨て、未成年者の喫煙、万引き、歩行者の信号無視行為などを取り締まったところ、数年後には凶悪犯が大幅に減少した。彼の政策は「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策と名付けられている。またアメリカでは、この考え方が「ゼロ・トレランス方式」として教育方針に取り入れられている。学校構内での銃の持込みや発砲事件、薬物汚染、飲酒、暴力、いじめ、性行為、学力低下や教師への反抗などの様々な問題に対し、細部にわたり罰則を定め、違反した場合は例外なく厳密に罰を与えることで、生徒自身の持つ責任を自覚させ、改善が見られない場合は、問題児を集める教育施設への転校や退学処分にするという、善良な生徒の教育環境を保護しようとするものである。 日本では、2001年に札幌中央署が割れ窓理論を採用し、駐車違反の徹底的取り締まりなど、すすき野環境浄化総合対策として犯罪対策を行った。身近なビジネス界では、従業員のマナーがとても良いだけでなく、園内の徹底された整備環境などから、ディズニーランドが割れ窓理論を適用して成功を収めている。
批判
別の解釈から、アメリカの犯罪発生率が低下した原因として以下が挙げられている。
1 麻薬の流行が収まったこと。
2 ロックフェラー麻薬法により刑務所の収容人口がゼロ・トレランスとは無関係に増加したこと。
3 人口構成の変化により、犯罪を起こしがちな16歳から24歳の男性人口が減少したこと。
4 1990年代の好景気により、職を得て犯罪から抜け出す方法を見出した人が増加したこと。
批判者は、主な犯罪の発生率が、1990年代の間アメリカの他の多くの都市でも低下しており、このことは「ゼロ・トレランス」政策を採用した都市でもしなかった都市でも同様であるという事実を指摘している。
<参考文献>
http://w01.tp1.jp/~a073147961/sub31.html
http://www.caguya.co.jp/blog_hoiku/archives/2008/08/post_1034.html