労働三権
出典: Jinkawiki
労働三権とは、労働者が労働について持つ権利である労働基本権のうち、団結権、団体交渉権、団体行動権といった三つの権利のことである。
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団結権
労働者が団結体を結成・運営し、団結活動を行う権利。これは、労働者が団結を通じて具体的な自由を回復することにより、その人間的な生存を確保することをねらいとして、とくに労働者に対してのみ保障された権利である。日本国憲法第28条では、労働者の「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」を保障すると規定し、団体交渉権や争議権とは区別された独立の権利として団結権を保障している(狭義の団結権)。しかし、労働者の諸要求実現のための活動の実態からすると、団結権は、団結体を結成し、団結活動を行い、使用者と団体交渉し、場合によっては争議行為も行うという一連の関連しあった動的な権利の総体としてとらえるべきである。団結権概念をこうした広義の意味ではなく狭義に理解する考え方は、歴史的には争議権のみを取り出して禁止するために生み出されたといえる。団結体は通常は労働組合という形態をとるが、争議団のような一時的なものも含む。また、団結権の保護は労働者と団結体の両方が受ける。団結体はその構成員の数に関係なく平等に保護を受ける。さらに、団結権は労働者の生存権保障をねらいとするものであるから、単に使用者との団体交渉を通じて解決しうる問題に限らず、広く労働者の社会的・経済的地位の向上に役だちうるような活動が保護を受ける。
団体交渉権
労働者団結(通常は労働組合)が、労働条件の維持・改善その他経済的地位の向上を図ることを目的として、団結の力を背景に、使用者または使用者団体との間で労働協約の締結を目的にして行う交渉をいう。団結が否認されていた時代に、労働組合はつねに使用者との交渉を拒否されてきたし、交渉を強行すれば面会強要、建造物侵入などの刑事責任を問われた。したがって、団結の承認は、すでにそのこと自体のうちに、使用者が労働者団結を交渉の相手方として承認することと、同時に交渉の実行行為者に対し刑事・民事責任を問わないことを含んでいた。また、労働組合が使用者により労働力取引の相手として承認されるためには、労働組合を交渉のための唯一の相手方として承認させることが必要であり、そのために労働組合は団体行動を行うことが認められなければならない。これが団結による団体交渉の内容であり、団結、団体交渉、団体行動の相互関係である。
日本国憲法は団体交渉権を労働基本権の一つとして保障しているから、団体交渉はそれが正当なものである限り刑事上、民事上の責任を課せられない。労働組合法は正当な団体交渉について刑事免責のあることを明文をもって規定している(1条2項)。そればかりでなく、同法は使用者による団交拒否を不当労働行為の一つとして規定し、労働委員会により特別の救済を受ける制度を設けている(労働組合法7条2号・27条、特定独立行政法人等の労働関係に関する法律3条)。したがって、使用者は労働組合の団体交渉申入れがあったときは誠意をもってこれに応ずべき義務を負い、これに違反すると不当労働行為となる。しかし使用者の団交応諾義務はかならずしも妥結・協定締結義務までも含むものではなく、交渉がまとまらないときは争議行為を通じて問題の解決が図られることになる。
団体行動権
日本国憲法第28条では労働者に対し「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」を保障している。ここでいう「団体行動をする権利」は、普通、団体行動の典型が争議行為であるところから、もっぱら争議権の意味で理解される。しかし、これとは別個の権利として団体行動権という場合には日常的な労働組合の活動の権利をいう。ところで、労働組合は労働者の労働条件の維持改善その他の目的を実現するために、職場集会、構内デモ、要求を記したリボンの着用、ビラ貼(は)りその他の多様な活動を展開する。しかし、これらの活動は、普通、企業の施設を利用したり就業時間中に行われるので、使用者が施設管理権に基づいて施設の利用を禁止したり、リボンをつけて就業している労働者にその取り外しを命令した場合、労働者の団体行動権との衝突という問題が生ずる。
公務員と労働三権
公務員の労働三権については制限があり、団体行動権の行使は一律に禁止、自衛艦・警察官・消防官・海上保安庁職員などは団結権はじめ一切の労働三権が認められていない。これについては戦後間もない頃から反対論があり、最高裁判所の判例や解釈も変遷したが、現在は「公務員の労働条件は財政民主主義の立場から国会の決定する権限であり、実際に雇用している政府は争議の対象にならない」などという立場から労働三権の制限は合憲とされている。
参考文献・参照文献
外井浩志/著 『図解でわかる労働法』 日本実業出版社
石井孝治/著 『労働法のキモが2時間でわかる本』 日本実業出版社