反転授業
出典: Jinkawiki
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反転授業とは
反転授業とは、2000年代後半から米国の初等中等教育を中心に広がり、教育関係者の間で注目を集めている。反転授業は、一般に「説明型の講義などの基本的な学習を宿題として授業前に行い、個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法」を指す。教師の個性と創造力を発揮される授業形態であり、教師は、生徒に寄り添うガイド役やファシリテーターの役割を担うこととなる。
2つの類型
反転授業は、授業相当の内容を予習としてオンライン学習で行うことによって対面学習の位置づけを変え、教育活動の付加価値をあげる点に特徴があり、どのような付加価値を追求するかによって大きく2つの類型に分けることができる。 ・完全習得学習型 完全学習は、早い時点で学習者の評価を行い、理解していない生徒に特別な処遇を与えることによって全員が一定基準以上理解することを目指す教育方法である。この型の反転授業では、オンライン学習で予習した後、十分理解していない学習者に対して教員や達成度の高い学習者が個別指導する対面活動を選択することが多く、比較的システム化しやすいため、普及が進んでいる。 ・高次能力学習型 高次能力学習型は、高等教育ではアクティブラーニングと呼ばれる読解、作文、討論、問題解決などの活動において分析、統合、評価のような高次思考課題を行う学習の流れに位置づけることができる。
反転授業の動画の種類
アメリカでは、反転授業は小学校から大学(院)まですべての教育機関で行われている。社会人でも学校の教室に限定しないで動画をあらかじめ視聴し、ある場所で定着や応用を行う場合、「反転授業」と呼ぶことがある。 いずれにしても、児童から生徒、学生、社会人に至るまで、反転授業(学習)が行われているが、教師が自分で動画を作成するのか、既存の動画を利用するかにより反転授業を行う負担が変わってくる。 反転授業の普及が注目されるようになった契機はMOOC(Massive Open Online Course)「大規模公開オンライン講座」が登場したことによる。アメリカの「Coursera」(コーセラ)、「edx」(エデックス)、「Udacity」(ユダシティ)といったMOOCの機関に加盟した大学がオンラインでかつ無料で講座を配信し、独自の課題を出し、修了の条件を満たした者には、修了証を発行しています。アメリカでは、MOOCの講座の動画を用いて反転授業を行う大学が現れ、落第率の低下がみられた、との報告があります。 日本においての2014年4月より、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進講義会)が公認する配信プラットフォームの「gacco」などが始まり、そこから大学が動画配信をし、受講者の中で希望する者は、大学で対面授業を受ける仕組みを使って、反転学習を行っている。 大学などの高等教育以外では、カーンアカデミーが無料の動画を世界配信していることで有名である。サルマン・カーン氏が算数、数学や物理などさまざまな分野にわたって動画を作り公開しています。アメリカでは、この動画を用いて反転授業をする学校もある。 日本でも「eboard」などのNPO法人をはじめとする、カーンアカデミーのような無料の動画を公開している団体があり、佐賀県の武雄市の小学校では、反転授業の動画は企業の協力を得て制作したものを使っています。
従来の授業と反転授業
反転授業で授業はどう変わるか学習の黄金サイクルである、自宅で予習をしっかりとこなし、授業中に予習でわからなかったところを補い、自宅では授業で習ったことを復習することを崩すことができる。反転授業で予習の段階に授業を行う解説を動画にすれば、予習+授業(講義)をすでに予習段階で終えることになり、授業では、黄金サイクルよりも先の応用・発展学習ができるようなる。例えば、英語の読解授業、黄金サイクルでは、予習の段階で授業中に扱う英文を日本語訳し、授業中に自分の用意した日本語訳の確認を行い、間違えたところを授業後に復習するという感じであったが、反転授業では、予習段階で英文訳の解説動画を見るところまで済ませ、授業中は確認テストや動画でわからなかったところの確認、発展的な課題に取り組むことが可能になり、より深く学ぶことができる。
反転授業はあくまで手段である
反転授業を行う上で最も大切だとされるのが、目的を明確にすることである。ある目的を達成するための手段が反転授業である。しかし、「目的への手段」が一転して「手段が目的」になりがちなのが反転授業である。 反転授業は、コンピューターを用いて解説動画を作成し、それをiPadなどのタブレット端末やスマートフォンを含むデジタル機器で視聴します。また、授業内外で効果的なアプリを利用することもある。 このようにICTが反転授業で使われると、今までの教室では教師が教科書を持って黒板にチョークで書き込みながら授業をし、生徒も教科書を参照しながら、鉛筆やペンを用いてノートに書くという風景とは異なる印象を与える。 政府が先導する「フューチャースクール推進事業」あるいは「学びのイノベーション事業」といった近未来の教育を模索する事業もあって「ICT教育=近未来型授業(=最先端教育)」という構図ができつつあるように思われます。よって、反転授業をすることが最新教育を行っているというふうに考えられる恐れがあります。 形式だけの反転授業をすればよいと考えるのは短絡的で、反転授業を実施するには、生徒という相手の学力を含む環境を考慮せずに解説動画をつくっても効果がない。 生徒の状況を見定めて、動画を提供することが重要だが、授業中の生徒への接し方も反転授業を行う目的なしにはうまくいきません。例えば、反転授業で象徴的な協働学習が学級崩壊につながることがあります。 目的が明確であれば、失敗もそれに向かう修正になるが、反転授業事体が目的であれば、失敗すると反転授業の失敗となり、修正をせずに止めてしまうことになってしまうかもしれない。「手段が目的」ではなく「目的への手段」としての反転授業の視点が肝要になる。
反転授業の課題
オンライン学習コンテンツにアクセスするためのデバイスとインターネットアクセスすべての学習者に確保する必要がある。日本は、アメリカと違って家庭においてインターネットを利用して学習する環境が未整備であり、学校側もインターネットを利用した宿題を出す習慣がないため、特に初等中等教育においては大きな課題になるだろう。 また、オンライン教材の整備も重要な課題となっている。学習者に適した自作教材を作れない場合、流通している教材を利用することになり、カーンアカデミーやMOOCのような教材の流通が進んでいない日本においては、何らかの対策が必要である。 また、反転授業の成功の鍵は対面でどのような活動をデザインするかにかかっている。教員はテクノロジーを活用したオンライン学習の支援に加えて、知識の定着や応用力の育成を重視したインタラクティブな教授方法を学ぶ必要がある。教員の専門性の根幹に関わるため、教員育成や研修等の組織的な取り組みが求められる。
参考文献
・『反転授業 -基本を学んでから、授業を応用力を身につける』(2014)ジョナサン・バーグマン、アローン・サムズ著 上原裕美子訳 オデッセイコミュニケーションズ
・『反転授業が変える教育の未来 -生徒の主体性を引き出す授業への取り組み』(2014)反転授業研究会編 芝池宗克、中西洋介著 明石書店
・『反転学習 -生徒の主体的参加への入り口』(2015)ジョナサン・バーグマン、アローン・サムズ著 上原裕美子訳 オデッセイコミュニケーションズ
-saly