各国の多文化教育

出典: Jinkawiki

目次

教育の国際化

国際理解とは、もともと国家間での関わり合いについて言及されていたが、現代ではヒト、モノ、政治、文化、学術など多様な面での関わり合いへと発展した。国際社会において、国、際交流がさかんになり、互いが緊密になり、多様なもの同士の相互依存が深まっている。したがって、異なる文化的背景をもつもの同士が一つの枠の中で共存するためには、相手の文化・習慣・立場の違いを知り、相手の特徴を理解しようとする必要がある。国際理解教育の担う役割は、子どもの頃からそのような学習機会を与え、訓練させることである。国際交流が激しくなった現代において、国際教育の重要性が高まっている。

アメリカと多文化教育

多文化理解に向けて

アメリカは移民や外国人労働者の移動において焦点を当てると、世界最大の移民・難民の受け入れ大国である。1950年代~1960年代にかけて、移民の増加や少数民族の様々な分野での台頭にともなって、少数民族の文化的なアイデンティティを無視することができない状態となり、複数文化の併存の実現を目標とし、「多元主義」という概念が表面化した。多文化化への対応として最初に実施されたのは同化主義政策である。その実施において学校が中心的な役割が期待されたのである。多文化化に関わって実施された当時の教育政策は、同時に社会政策であった。アメリカでは、多種多様な文化的背景をもつ様々な民族が、アメリカという国の中で自己のアイデンティティを確認し、国家の一員として誇りを感じ、その社会・政治制度を支持するようになることを目標した、政治政策の中で働き続けてきた。

人種差別

現在でも学校は、白人の主流文化に生徒たちを同化させるという歴史的作業の名残が残っている。アメリカ様式を教える際に、少数民族の文化的な相違が一種のハンディキャップになるとみられている。教員たちは今日でも同化主義的な思想から抜け出せず、生徒個人の持つ文化的な利点に十分な理解ができないという現状もある。1950年代~1960年代には、学校の人種差別廃止政策や70年代のレインボー活動などの、民族融合や民族共存のための教育的な努力も多く実施されてきた。

ヨーロッパの多文化教育

ヨーロッパ諸国の状況

アメリカに対して、ヨーロッパ諸国はかつて移民流出国であった。約6000万人以上の移民をアメリカやその他の国に送り出していた。近年では、相当の移民を受け入れ、完全な移民・難民受け入れ国となっている。しかしながら、アメリカとは異なり、自国の国民アイデンティティを重視する考えが強い。ヨーロッパでは移民受け入れ当初から移民を四つのタイプ(①同胞移民②旧植民地出身③難民④労働者の募集・受け入れ)に分類していた。

イギリス

学校外における英語の集中的な習得と、移民の割合が高いことが他の生徒の学業にマイナスであるとして移民の分散政策が行われたが、同化主義的な教育政策であると批判された。そのきっかけとなったのが、西インド諸島出身者が抱える学業不振であり、西インド諸島出身者の文化的アイデンティティが守られていないことが指摘された。このような指摘から、文化的背景の相違から、移民の子どもがイギリスの学校文化へ適応する際の心理的な障壁と学業不振の問題を関連付ける必要性が、教育政策の中でも検討されるようになった。近年では、EALに対する英語取得を最優先にして学業達成を促すための政策が推進されている。歴史的な背景から今日に至るまでのイギリス社会における文化的な多様性を理解し、エスニック・マイノリティの文化的アイデンティティを尊重しつつ、イギリス社会の一員としてのアイデンティティ形成を促すシティズンシップ教育が2007年以降のカリキュラムに導入されている。しかしながら2010年以降の政権下では、エスニック・マイノリティやEALを直接の対象とした補助金は無く、学校特定交付金という学校に直接分配される補助金の中から学校が特定の教育的支援の有無を決めている。

フランス

フランスの公立学校において、移民に対する特別な教育政策は、共和国の平等原則を尊重するうえで、政策の中で移民の文化的な背景に配慮せずに展開されてきた。その一方で、社会的経済剥奪を背景とした学校不適応の問題について、優先教育政策などを中心に取り組んできた。このような社会経済的統合を目的とした、第二世代の移民背景を持つ生徒を対象として含め、社会経済的格差を是正することによって学校適応を促進したのである。このような公教育制度の中で、アフリカ系出身者の第二世代は南欧系出身者の第二世代に比べて就学修了時の学歴や就労率が低いことが分かっている。今後のフランスにおいて、出身言語あるいは家庭言語の維持が子どもの学業達成や学校適応に及ぼす影響について分析し、出身言語と文化の教育がもたらす教育的効果を明らかにしていくことが、移民の出身言語を維持することや習得するうえで重要視される。

ドイツ

ドイツでは「PISAショック」契機に移民の子どもの低学力問題が教育問題としてのみならず、社会問題化した。その結果として、ドイツでは「教育スタンダード」が導入され、モニタリングの観点が強くなっている。その中で、移民の子どもの学力データを詳細に収集することが重要な政策的課題として位置づいている。これまでの調査から、移民の子どもの学力は非常に低い傾向にある。今日において、各州では就学前段階から早期のドイツ語教育が進められている。就学一年半ほど前に実施される言語能力試験において、一定水準に達しなかった場合には就学前施設への入園とそこでのドイツ語教育プログラムの受講が義務付けられている。

参考文献

遠藤克弥著「国際化理解と教育」1998年発行 川島書店


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