出典: Jinkawiki

目次

嘘の定義

 ドイツの心理学者シュテルンは嘘の定義を「嘘とは、だますことによってある目的を達成しようとする意識的な虚偽の発言(口述)である」としている。  またうそつきには、次のような特徴が認められているとしている。 ①虚偽の意識がある。したがって、自分の言っていることが事実と違っていることを承知している。 ②騙す意図がある。間違っていることを相手に信じさせようとする意図がある。また、故意に、計画的に、本当のように装って言いくるめようとする。 ③騙す目的がはっきりしている。罪や罰を逃れたり、自己防衛しようとしたりする目的がある。この目的は利己的な動機から出ているのだが、時には利他的(他人の利益のために自分を犠牲にすること)な動機がみられることがある。


人はどのように嘘をつき始めるか

 生まれたばかりの子どもは、意識の中で自他の区別はない。発達初期を過ぎると、子どもは、母親が自分とは別の存在であることに気づき始める。これがおよそ6か月から2歳くらいの間といわれている。要するに、自分以外の存在がわかり、その存在の言っていることが分かる時期になると、子どもは嘘をつき始める、あるいは、ごまかしを始めるといわれている。「子どもは純粋」という言葉があるが、ただ嘘をつけるほど知的に発達していないだけである。だから、子どもが上手に嘘をつけるようになっていくということは、その子が順調に知的発達を遂げている証拠である。  嘘を覚える原因の大部分を占めるのは、親などの身近な大人である。直接的には、「この話は内緒にして」や「知らない人が電話をかけてきたり、訪ねてきたりしたら、いないと言って」など、間接的には、子どもと交わした約束を忘れる・頼まれていたことをし忘れるなどのことが重なると、親の言うことは実際には実行されない、つまり、「嘘」ということを学ぶ。そして嘘をついてもいいと思い始める。このように、日々、嘘にさらされているうちに、子どもたちは、嘘・ごまかしを体得していく。


嘘の種類

嘘の内容は12のタイプに分けることができる。

①予防線…人との約束を何かの理由をつけて断ったり、行き先や目的を本来とは異なる形で相手に告げたりするというように、予測されるトラブルをあらかじめ避けようとする嘘。

②合理化…守れなかった約束や遅れた理由など、終わってしまったことを責められたときに持ち出す言い訳や口実の嘘。

③その場逃れ…何かをしたかどうかを問われたとき、していないにもかかわらず、「した」とその場でとっさに答えてしまうような一時しのぎの嘘。

④利害…金銭などが絡んでいる場合で、相手との関係を、自分が得をしたり有利になったりする形にもっていこうとする嘘。

⑤甘え…自分を感情的に理解したり、また養護したりしてほしいという意図を含んだ嘘。

⑥罪隠し…自分のした悪いことを隠そうとする嘘。

⑦能力・経歴…自分の能力や経歴を高くあるいは低く言うことで、相手との関係の中で自分を優位に立たせようとする嘘。

⑧見栄…買った馬券がはずれたにもかかわらず、「当たった」とか、彼女がいないのに「いる」と言ってしまう、自分をよく見せたり目立たせたりしたいためにつく嘘。

⑨思いやり…真実を話してしまうと、相手が傷つくと思われる場合、それを避けようとしてつく嘘。

⑩ひっかけ…本当のことがわかっても、お互いに笑ってすませられるような、からかいとか冗談の類の嘘。

⑪勘違い…嘘と言うより、自分の知識の不足や勘違いから、結果として嘘になってしまう嘘。

⑫約束破り…いったんした約束が、何らかの理由で守れなかった時に生じるもので、必ずしも意図的とは限らない嘘。

⑬自己犠牲…一時的には自分に不利になるような嘘をついて他人をかばったりするが、結果的には自分の心を成長させ、かばった相手の心もいたわれるような嘘。

※以上の中で、⑦の能力・経歴と⑪の勘違いは大学生だけに見られ、⑫の約束破りは社会人だけに見られた。 しかし、この調査は、十年以上も前のものなので、嘘のタイプは変わることはないと思われるが、大学生特有や、社会人特有だったものも、現代では共通になっている可能性は大いにあると考えられる。

嘘をつく理由

 上記でも述べたとおり、子どもは嘘を周りの環境から体得する。大人は「嘘をつくのはいけないことだ」というが、それでも嘘をつくようになるのは、嘘が自分にとって何らかのメリットに繋がることに気づくからである。  嘘をつくことによって自分が得る利益には、短い時間・期間での利益と長い時間・期間での利益の二種類ある。  短い時間・期間の利益は、その場しのぎの嘘や、言い逃れなど、自己防衛的なものが多い。また自分を飾ったりよく見せようとしたりする嘘もこれに当てはまる。上記の種類で言うなら、③・⑥・⑧等である。  長い時間・期間の利益は、自己犠牲的な嘘がこれにあたる場合が多い。上記の種類の⑬である。  また心理学的に説明すると、人間には「自我」が存在し、絶えず強い不安や心配を抱えていたとしたら、「自我」は不安定になってしまう。人間は無意識のうちに、これらを避けるための心の働き(自我の「防衛機制」)を持っている。簡単に言ってしまえば、自分の中の不満や不安といった受け入れがたい感情をごまかすために、無意識のうちに自分で自分に嘘をつくのである。これが他に対して向けられることがあるということである。  このようなごまかしは、一概に悪いものではない。なぜなら、自分自身に嘘をついて、一時的に安心させ、その間に問題に対して自分で対処出来るようになるかもしれないからである。嘘は本来、自分を守るために、心に備わった機能なのである。


参考文献

椎名健 著 『人はなぜ嘘をつくのか』 ごま書籍1996年1月  M.S


  人間科学大事典

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