少子化問題
出典: Jinkawiki
少子化問題
日本において生れる子供の数が減少し現在の人口を維持できないばかりか経済全般・社会保障(特に年金問題)・労働市場などに大きな影響を与える深刻な問題である。また、高齢化社会の原因にもなっている。現在の高齢化社会は、高齢者の人口が多いことが問題ではなく、高齢者の比率が高いことが問題なのである。つまり、出生率が上昇すれば、理論的には高齢化社会から脱却することが出来るのである。 現在の社会問題に大きく影響を与えているものと考えてられているのである。 一般に《少子化》は、「合計特殊出生率」で表されその数値が2.08を下回ると少子化(もしくは少子化が進んでいる)といわれている。
・出生率:ある年に生まれた子供の数を人口/千人あたりに換算した数値を示す。 現在の日本の人口を1億2000万人とし、ある年に120万人子供が生まれたとすれば、出生率は(120万÷1億2000万/千人)=10となる。 ベビーブーム期(1947-49)においては33~34、ここ数年は10を下回っている。
・合計特殊出生率:上記の出生率計算の際の分母の人口数を、出産可能年齢(15~49歳)の女性に限定したものである。例えば、25歳の女性が100万人いたとし、ある年に25歳の女性が5万人の子供を産んだとすると、25歳の女性だけの出生率は、(5万÷100万)=0.05。 同じ要領で15歳から49歳の年齢層の女性の出生率を求め、合算したものが合計特殊出生率となる。 この数値は、一人の女性(未婚既婚を問わず)が、一生に何人の子供を生むか?という近似値を示すものとされている。 戦後日本の合計特殊出生率は、概ね3つの段階を経て現在に至っていると言われている。
第一段階は、1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)の第一次ベビーブーム以降の急激な出生率低下時期である。合計特殊出生率が4.0から1950年代半ばにはおよそ2.0まで低下し、多産多死から少産少死への以降時期とともに、優生保護法の改正により中絶件数の増加、避妊技術の確立など主に夫婦間での出生率低下が原因であると言われている。
第二段階は、1960年代~1970年代半ばの時期であり、出生率は概ね2.0を少し超えるぐらいの比較的安定期であった。この時期は、少子化そのものは確実に進んではいたものの、第一次ベビーブームの子供たちの出産により表面的には安定を保っていたのである。
第三段階は、1974年のオイルショック以降現在に至る時期である。第二段階との違いは、※人口置換水準(2.08)を大きく下回る出生率を維持していることであり、その理由は、当初は晩婚化・未婚化によるものあったが、特に近年においては、晩婚化・未婚化+家庭内出生率低下というふうにその理由が複雑なものとなったのである。 ※人口置換水準=人口を一定に維持していく為に必要な水準であり、合計特殊出生率では2.08であると言われている。
少子化の原因の背景
①仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れや高学歴化 1980年代から働く女性の増大、とくに若い世代の女性の労働力率が上昇してきた一方で、仕事と子育てを両立できる環境が十分整っていなかったことが晩婚化や晩産化につながり、その過程で出生率の動向に影響を与えてきたと推測できる。また、男女双方の高学歴化も晩婚化に影響を与えている。 初めて子どもを出産した母親の場合、出産1年前に仕事を持っていた人のうち約67%が、出産半年後には無職となっている。働く女性にとっては、出産・育児と仕事の両立が大きな課題であり、働く女性の増大を踏まえ、出産・育児と仕事の両立が可能となるように、子育て期において育児や仕事の負担軽減を図るため、保育所の拡充等の保育支援や育児休業の取得促進、勤務時間の短縮、再就職促進等の雇用のシステムをつくりあげていく必要がある。
②結婚・出産に対する価値観の変化 女性の場合、「ある程度の年齢までには結婚するつもり」とする人は、54.1%(1987(昭和62)年)から43.6%(2002(平成14)年)と減少し、「理想の相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」とする人は、44.5%(1987年)から55.2%(2002年)へと上昇している。結婚を必然のことではなく、人生の選択肢のひとつとしてとらえている人も多い。結婚に対して、社会的規範意識よりも個人的な理由に基づくものへと、結婚に対する意識が変化してきている。 個人が自由や気楽さを望むあまり、家庭を築くことや生命を継承していくことの大切さへの意識が失われつつあるのではないかとの指摘がなされている
③子育てに対する負担感の増大 理想の子ども数よりも実際の子ども数が少ない理由として、子育て費用や教育費の負担をあげる人が最も多い。続いて、若い世代では、育児の心理的・肉体的負担の重さや子どもの育つ社会環境の問題をあげ、高年齢層では、高齢を理由にあげる人が多い。たとえば、教育費の負担をみると、幼稚園から大学までの費用は、公立か私立により変わってくるが、概ね約1,400万円から約2,000万円かかっている(高校までは教育費、大学では生活費も含む)。 夫婦が仕事と家庭に時間をどう配分するかということも、子育て負担の重さと関係している。現状では、父親が仕事優先という傾向にあり、家事や育児にあてる時間が極端に少なく、母親の負担をより重くしている。職場優先、経済優先の風潮などから、無関心や放任といった極端な養育態度の親などの問題が指摘されている。仕事にかかる時間とのバランスをとりつつ、育児にかかる親の時間を増やし、子どもに対して時間的、精神的に十分に向き合うことが、出生率の回復や健全な子育てに資するものと考えられる。 家庭や地域における子育て力が低下しているため、育児に対する孤立感や疲労感、自信の喪失につながっていると指摘されている。
④経済的不安定の増大等 90年代以降の経済の長期停滞の中で、20歳代の若者の失業率が最も高く、若年失業者やフリーターの増大など、若者が社会的に自立することが難しい社会経済状況にある。こうした若者の経済的不安定が結婚に影響を及ぼし、ひいては子どもの出生に影響を与えている。2003(平成15)年には、フリーター数は217万人と推計されており、15~34歳の労働力人口のうち、10人に1人はフリーターとなっている。また、ニート(仕事をせず、学生でもなく、職業訓練もしていない無業者)は約52万人と推計されている。 今後、政府による就業支援や人材育成策とともに、企業側としても、若者への雇用・就業の場の提供や、長期的な視点から人を大切にし、人材育成、キャリア支援を図るべく従来以上の主体的な取組を行うことが求められている。
対策
①雇用環境の整備
第十条:国及び地方公共団体は、子どもを生み、育てる者が充実した職業生活を営みつつ豊かな家庭生活を享受することができるよう、育児休業制度等子どもを生み、育てる者の雇用の継続を図るための制度の充実、労働時間の短縮の促進、再就職の促進、情報通信ネットワークを利用した就労形態の多様化等による多様な就労の機会の確保その他必要な雇用環境の整備のための施策を講ずるものとする。 国及び地方公共団体は、前項の施策を講ずるに当たっては、子どもを養育する者がその有する能力を有効に発揮することの妨げとなっている雇用慣行の是正が図られるよう配慮するものとする。
②保育サービス等の充実
第十一条:国及び地方公共団体は、子どもを養育する者の多様な需要に対応した良質な保育サービス等が提供されるよう、病児保育、低年齢児保育、休日保育、夜間保育、延長保育及び一時保育の充実、放課後児童健全育成事業等の拡充その他の保育等に係る体制の整備並びに保育サービスに係る情報の提供の促進に必要な施策を講ずるとともに、保育所、幼稚園その他の保育サービスを提供する施設の活用による子育てに関する情報の提供及び相談の実施その他の子育て支援が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。 国及び地方公共団体は、保育において幼稚園の果たしている役割に配慮し、その充実を図るとともに、前項の保育等に係る体制の整備に必要な施策を講ずるに当たっては、幼稚園と保育所との連携の強化及びこれらに係る施設の総合化に配慮するものとする。
③地域社会における子育て支援体制の整備
第十二条:国及び地方公共団体は、地域において子どもを生み、育てる者を支援する拠点の整備を図るとともに、安心して子どもを生み、育てることができる地域社会の形成に係る活動を行う民間団体の支援、地域における子どもと他の世代との交流の促進等について必要な施策を講ずることにより、子どもを生み、育てる者を支援する地域社会の形成のための環境の整備を行うものとする。
④母子保健医療体制の充実等
第十三条:国及び地方公共団体は、妊産婦及び乳幼児に対する健康診査、保健指導等の母子保健サービスの提供に係る体制の整備、妊産婦及び乳幼児に対し良質かつ適切な医療(助産を含む。)が提供される体制の整備等安心して子どもを生み、育てることができる母子保健医療体制の充実のために必要な施策を講ずるものとする。 国及び地方公共団体は、不妊治療を望む者に対し良質かつ適切な保健医療サービスが提供されるよう、不妊治療に係る情報の提供、不妊相談、不妊治療に係る研究に対する助成等必要な施策を講ずるものとする。
⑤ゆとりのある教育の推進等
第十四条:国及び地方公共団体は、子どもを生み、育てる者の教育に関する心理的な負担を軽減するため、教育の内容及び方法の改善及び充実、入学者の選抜方法の改善等によりゆとりのある学校教育の実現が図られるよう必要な施策を講ずるとともに、子どもの文化体験、スポーツ体験、社会体験その他の体験を豊かにするための多様な機会の提供、家庭教育に関する学習機会及び情報の提供、家庭教育に関する相談体制の整備等子どもが豊かな人間性をはぐくむことができる社会環境を整備するために必要な施策を講ずるものとする。
⑥生活環境の整備
第十五条:国及び地方公共団体は、子どもの養育及び成長に適した良質な住宅の供給並びに安心して子どもを遊ばせることができる広場その他の場所の整備を促進するとともに、子どもが犯罪、交通事故その他の危害から守られ、子どもを生み、育てる者が豊かで安心して生活することができる地域環境を整備するためのまちづくりその他の必要な施策を講ずるものとする。
⑦経済的負担の軽減
第十六条:国及び地方公共団体は、子どもを生み、育てる者の経済的負担の軽減を図るため、児童手当、奨学事業及び子どもの医療に係る措置、税制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
⑧教育及び啓発
第十七条:国及び地方公共団体は、生命の尊厳並びに子育てにおいて家庭が果たす役割及び家庭生活における男女の協力の重要性について国民の認識を深めるよう必要な教育及び啓発を行うものとする。 国及び地方公共団体は、安心して子どもを生み、育てることができる社会の形成について国民の関心と理解を深めるよう必要な教育及び啓発を行うものとする。
参考文献
・少子化の原因の背景 http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-g/html/gg122000.html
・失われる子育ての時間 : 少子化社会脱出への道 池本美香著 勁草書房
・少子化対策 ~少子化対策推進基本法~ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/syousika/index.html
(投稿者:TR)