希望格差

出典: Jinkawiki

希望格差とは

将来に希望を持てる人と絶望する人というように二極化したこと。 バブル以降、企業間で「勝ち組」と「負け組」というものがうまれ、それが人々の生活実態にも現れ始めたことから浸透していった。 その格差は拡大し、「努力は報われない」と感じた人々から「希望」が消失していった。


背景

1 階層格差

職業選択が自由になり、自分の実力で社会に生きていくようになったと思われているが、生まれによる影響がなくなったわけではない。 どのような親の元に生まれるかにより結果的にその子が身につける「実力」が違ってくる。 豊かな親のもとに生まれればより良い教育を受けられ、親のネットワークも利用できる。裕福な親の子は有利になるということだ。

2 弱者の出現

前近代社会では格差はあっても大名の子は大名に、農民の子は農民になるといったように、水準は社会的に固定化されていた。 しかし近代社会では実力によって収入格差がどうつくのかは市場次第である。特段の実力がある人は高収入であって、そうでない人の収入は落ちていく。 大金持ちもいればホームレスも出現するように格差は拡大していった。 このように自分の生活を自分で維持できない「弱者」が生まれてしまっている。 そういう人たちの中には、努力したのだけれど能力が発揮されなかった人、チャンスに恵まれなかった人、育った環境が適切でなかった人が含まれる。 一度ルートを外れた人が努力しても生涯にわたって不利益を被ることもあるのだ。

3 教育の不安定化

教育は子供にとっては何より「階層上昇の手段」であり、社会にとっては「職業配分の道具」である。 小中学校に通い、進学または就職、高校へ行っても進学または就職といったような教育のパイプラインが日本には存在する。 これは将来の見通しをつけ、さらに階層上昇の手段として機能していった。 しかし、そのパイプラインから漏れ出す、下に落ちていく生徒・学生がでてきた。その受け皿となっているのが「フリーター」である。 こういった新たな「リスク」が生まれ、さらなる格差が広がっているのである。いわゆるこれが教育における「負け組」と「勝ち組」の格差である。 そしてこの「パイプライン・システムの漏れ」は生徒・学生・若者の社会意識にさまざまな悪影響を及ぼす。 学校を出ても仕方がないが、でなければもっとダメ。 学校に入った全員が希望の職に就けるわけではない状況。 つまり、勝ち残った者以外は死ねというような、バトルロワイアルな社会意識となってしまっている。 希望の二極化がやる気の二極化をもたらし、結果、学力も二極化してしまった。 また、勉強という努力が報われないことから、学ぶ側に学ぼうとする意欲が失われている。学校外でまったく勉強しない中学生が増えているのだ。 ここからも、勉強する子としない子の二極化がすすんでいることがわかる。 つまり、勉強することにやる気をなくす子や子供に勉強させようとする意欲がわかない親が増加している。これをインセンティブ・ディバイド(意欲格差)という。

4 ニューエコノミーの影響

ニューエコノミーにおける格差は「仕事」そのものにある。 高収入をもたらす職に就いている人と低収入しかもたらさない職に就いている人との格差が現れる。 ニューエコノミーはハイスキル職とロースキル職への二極化を進行させた。 また、生産性が高い人と低い人という二極化も生ませた。 専門中核労働者は創造力、想像力、美的センス、情報スキルが必要な仕事につき、高い生産性を発揮する。 つまり、新しいことを作り出しそれを人々に広めることで他人の欲求を満たすことができるのだ。 一方、定型作業労働者は、スキルアップが必要でない仕事(配送・ティッシュ配りなど)やマニュアル通りに働けば良い仕事につき、生産性の大きな上昇は期待できない。 これが彼らのもつ格差である。

希望の喪失

そもそも希望とは、努力が報われるという見通しがある際に生じる。逆に絶望は努力してもしなくても同じだと思うときに生じるものだ。 苦労や悩みを乗り越える力を与えてくれるものが希望という感情である。 しかし、現在の日本社会は努力が報われない機会が増大する社会となってしまった。 リスク化の進展、フリーターの増加、パラサイト・シングルの誕生・ニューエコノミーなどが原因である。 苦労をせずに教育されてきた青年が社会にでて苦労に耐えられなかったりする。 自ら希望を喪失やすい状況をつくってしまっているということだ。


〈参考文献〉  山田 昌弘(著) 『希望格差社会』 2004 筑摩書房

 山田 昌弘(著) 『新平等社会 「希望格差」を超えて』 2006 文藝春秋


(投稿者:dorothy)


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