時効
出典: Jinkawiki
時効(じこう)とは、法律用語の一つで、ある出来事から一定の期間が経過したことを主な法律要件として、現在の事実状態が法律上の根拠を有するものか否かを問わずに、その事実状態に適合するよう権利又は法律関係を変動させる制度。
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制度の存在理由
時効制度の存在理由について、一般の学説は次の3点をあげ、これをもって、すべての時効制度に通じる統一的理由とする。すなわち、(1)長期間継続した事実状態は、法律関係を安定させるために法的に保護する必要があること、(2)権利行使を怠り「権利のうえに眠っている者」は法の保護に値しないこと、(3)長期間の経過によって立証が困難となり、したがってこれを救済する必要があること、の3点である。しかし、このような通説の一元的説明に対しては、これに反対し、多元的に説明する有力な学説がある。この説は、時効には、(1)請求権の消滅時効(たとえば債権の消滅時効)、(2)他物権(他人の物権のうえに成立する物権)の消滅時効(たとえば地上権の消滅時効)、および(3)取得時効(たとえば所有権の取得時効)の三つがあって、それらはそれぞれ制度の存在理由を異にし、(1)は、期間の経過によって権利関係の証拠が不明確となることが多いので、法定証拠によって義務者を解放することを目的とする制度であり、(2)は、所有権の完全円満性に奉仕する制度であり、(3)は、権原(ある法律的または事実的行為をなすことを正当とする法律上の原因)の証明の困難を容易にすることによって物権取引の流通を安定させることを目的とする制度である、としている。
制度の放棄と中断、停止
時効の利益を受けない旨の当事者の意思表示を時効利益の放棄という。時効の利益は、時効完成前あらかじめ放棄することは認められない(民法146条)。その理由は、債務者が窮迫に乗じられて債権者によってあらかじめ時効の利益を放棄させられることを防止することにある。したがって、そのような危険がない時効完成後においては、時効の利益を放棄することが認められている。なお、判例は、時効完成後に債務者が債務を承認したり、弁済したり、延期証を差し入れたような場合には、もはや援用できない、としている。
時効の中断 一定の事由があった場合には、それまで経過した期間は法律上無意味なものとされ、新たに時効期間が進行し始める。これが時効の中断である。法定中断事由には、(1)請求(民法149条~153条)、(2)差押え・仮差押え・仮処分(同法154条・155条)、(3)権利の承認(同法156条)の3種類があり、これらは消滅時効および取得時効の両方に適用される。このほか、取得時効には占有の喪失という自然中断事由がある(同法164条)。
時効の停止 時効期間の終わりにおいて請求権を行使することがとくに困難な事情(たとえば天災地変など)にある場合には、民法は時効の完成を猶予する(158条~161条)。これが時効の停止である。
時効期間
債権の消滅時効期間は原則として10年(民法167条1項)、商事債権は5年(商法522条)である。しかし民法は、特定の債権については短期消滅時効を定めている(169条~174条)。それによると、年またはこれより短い時期をもって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権(定期給付債権)は5年、医師・助産師・薬剤師などの治療・勤労・調剤に関する債権や技師・棟梁・請負人の工事に関する債権などは3年、弁護士・公証人などの職務に関する債権、生産者や商人の売掛代金、理髪店・洋裁店・靴屋などの仕事代金、生徒や弟子の授業料などは2年、労力者(大工・左官)・芸人の賃金およびその供給した物の代価、労働基準法の適用のない雇人の月給・週給・日給、旅館・料理店・貸席・娯楽場の宿泊料・飲食料・席料・入場料、貸衣装や貸本の損料などは1年、となっている。
所有権は時効消滅しない。債権または所有権でない財産権の消滅時効期間は20年である(民法167条2項)。形成権(たとえば取消権)の時効期間については、判例は10年と解している。
取得時効は、所有権の場合には所有の意思をもって、所有権以外の財産権の場合には自己のためにする意思をもって、平穏かつ公然に、他人の物を一定期間占有することによって成立するが、その時効期間は、占有者・準占有者が占有・準占有の始めに善意無過失の場合には10年、その他の場合には20年である(民法162条・163条)。
刑事法上の時効
一定期間が経過したことにより、刑罰権を消滅させること。刑事法上、刑の時効と公訴の時効とがあるが、一定の時間的経過により刑罰権を消滅させること(刑罰消滅事由)においては、本質的に同じである。この制度の根拠として、(1)犯罪者に対する被害者や社会一般の応報感情が薄れ、非難が緩和したこと、(2)犯罪者自身も、この間に、十分な呵責(かしゃく)を受け、改善が推測されること、(3)時間の経過により、犯罪の立証が困難であること、などが主張されている。このうち、(1)(2)は刑の時効につき、また(3)は公訴の時効に、より適合する。
刑の時効とは、刑の言渡しが確定した者が、次の期間内にその執行を受けない場合に適用される。すなわち、死刑は30年、無期の懲役・禁固は20年、有期の懲役・禁固は10年以上が15年、3年以上が10年、3年未満は5年、罰金は3年、拘留・科料および没収は1年、である(刑法32条)。時効の完成により、刑の言渡しを受けた者は、その執行を免除される(同法31条)。
公訴の時効とは、刑の言渡しの確定しない者につき、公訴権を消滅させ、結果的に刑罰権そのものが消滅する。公訴時効の期間は、死刑にあたる罪が15年、無期の懲役・禁固が10年、10年以上の懲役・禁固が7年、10年未満の懲役・禁固が5年、5年未満の懲役・禁固または罰金が3年、拘留・科料が1年、となっている(刑事訴訟法250条)。公訴の時効が完成した場合には、免訴の言渡しをしなければならない(同法337条4号)。
参考文献 『刑法がわかる!』/知的生き方文庫 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E5%8A%B9