浮世草子
出典: Jinkawiki
現世否定的で教訓を主とする仮名草子と違い、浮世つまり享楽的現世、特に好色生活を写した風俗小説。好色物・町人物・武家物など内容な多様でる。 井原西鶴の『好色一代男』を以ってはじまる。というより、正確にはこの作品を受けて一変した庶民文学の様相を受けて、西鶴以前を仮名草子、西鶴以降を浮世草子と後から分類したものである。 『好色一代男』は七歳で好色に目覚めた世之介が勘当されて諸国を放浪して各地の遊里で好色修行に励む様子を描き、父の死後は高名な遊女を相手とし、女ばかりの女護が島を求めて船で旅立つ六十歳までを描いた作品である。 この作品の特徴として中村幸彦は、まず仮名草子以来の擬物語の流れを汲んでいると指摘する。そしてその理由として、『源氏物語』の五十四帖にならって主人公を七歳から六十歳までの五十四年間で描いていることや、世之介の人物像が『源氏物語』や『伊勢物語』の主人公にかなり近いことなど、既に藤岡作太郎らによって指摘されたことを根拠に述べている。また、すでに藤井乙男が、この作品が仮名草子期の遊女評判記の流れを受けていることを指摘したことを紹介しているが、中村は評判記には擬物語性が既に存在していたという。つまり、『好色一代男』にみられる擬物語性と遊女評判記性は偶然備わったのではなく、西鶴が新しく評判記を書くにあたり、小説性を高めるために擬物語の要素を意図して取り入れた可能性がある、ということである。いずれにせよ西鶴の『好色一代男』の擬物語性と遊女評判記性は仮名草子期とは大きく異なったものであり、中村は「描き出す当世性の量が遥かに多くなり、多量になって、質の変化を来たした」と言っている。 また、描かれる遊女たちにしても様々な新しい変わった様子を描いたり、場所も三都から地方に広がりを見せるなどの変化があり、これらを記録する意図からか描写も写実主義的である。このことから中村は、西鶴の目的の一つに「好色生活の面を焦点に据えた当代風俗の描写があったのではなかろうか」と指摘し、『好色一代男』を「風俗小説」と表現している。
参考文献 日本史B用語集 全国歴史教育研究協議会 http://www.ne.jp/asahi/wind/kessyou/saikaku.htm